本日、例年通り立命館大学の理工学部三回生向け「発明講義」が、始まりました。第一回の報告をしておきます。
講義終了後、数名の学生さんから「衝撃を受けた」というメールが入っていました。衝撃を受け過ぎて「気絶」していた学生も散見されましたが(要するに寝ていた)、彼らはちゃんと話を聞いてくれていたようです。
彼ら曰く「想像もしていなかった内容」「密度に衝撃を受けた」ということでした。では、一体どんな講義だったかを、差し支えない範囲で再現してみましょう。
<講義のルール>
僕の講義のルールはこうなっています。事務的なところから行きましょう。
①紙は配らない
②先生(せんせい)ではなく「楠浦(くすうら)さん」
③Grワークがあるので、欠席は厳禁
立命館大学では、講義資料は電子データでデータベース化されているので、配る必要がそもそもありませんし、学生も、紙で配られても次回持ってくるのが面倒なので、①のような方針がベストです。
②は当たり前なので、③ですが、これも当たり前ですね。周りに迷惑を掛けてはいけません。次に、ポリシー的な部分です。
④世の中の大半の問題は、唯一解のない問題であるということを理解する
⑤どんどん発言する
⑥何を言ってもOK
⑦他人の「意見」は否定しない
⑧どんどん調べる(ググる)
⑨随時質問OK
④も当たり前ですよね。高校までの勉強は基礎修練のための「箱庭」だっただけで、大学以降はそれを実際の問題に応用するフェーズ。大学と高校の違いは、システムのヌルさ(日本のみ)を除くと、ここにあります。
⑤⑥⑦はセットですね。唯一解が無いわけなので、どんどん考えて発言すればいい。別に調べてもいいし、一時話題になった「XX知恵袋」を使っても構わない(⑧)。あとで調べよう、と思って調べた試しがない人が大半でしょう。その場で調べるべきです。それでもわからなければ、どんどん質問(⑨)すればいいわけです。
どんなに調べても、他の人に聞いても判らないこと、それこそが、頭をつかうべきこと(発明の対象)なのです。
社会人としては、さして特別なルールではありませんが、大学の講義としては少し「変わって」いるかも知れません。
<講義の内容>
キリがないので、そろそろ内容に行きましょう(笑)。今回の講義は、概ね以下の様な構成で進みました。
①自己紹介
②日本は「技術大国」ではあるが、「技術立国」ではない
③ゆえに、技術者が経営を理解し、取り組む必要がある。その中核が「発明」と「マーケティング」
④世界がどうなっているか
⑤皆さんはどうすべきなのか
自己紹介はほどほどに(話すと長くなりすぎる)、②の話をしました。これも説明不要でしょうね。「技術で勝って事業で負けている」(注1)というのは有名な話ですから。また、例えば、トヨタ、ホンダの財務諸表を見れば、彼らが金融事業に如何に依存しているかがわかります(それはそれで、販売方法のイノベーションですので、素晴らしいことだと思いますが)。
③については、経営に興味がある、お金について知っておきたい、という学生が散見されましたので、さらっと触れました。「お金に興味があるというなら、いまこの瞬間に、どれだけの学費がかかっているのか、すぐに計算しなさい。少なくとも、気絶して(寝て)いる場合ではない」というメッセージとともに。
④は、いつも使う映像資料に少しだけ仕掛けをして流しました。映像リストは(塾生にはお馴染みの)以下。
・テレビ東京WBS(2008年放映)映像資料。以下とは異なるが、内容的には類似。
「米 発明資本市場の胎動」
http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/highlight/post_1716.html
・「TED」のN.ミアボルドの講演(日本語字幕 Ver.)
「Nathan Myhrvold: Could this laser zap malaria?」
http://www.ted.com/talks/lang/eng/nathan_myhrvold_could_this_laser_zap_malaria.html
・「TED」のE.Byerの講演(字幕なし Ver.)
「Eben Bayer: Are mushrooms the new plastic?」
http://www.ted.com/talks/lang/en/eben_bayer_are_mushrooms_the_new_plastic.html
⑤も、いつも僕が言っていることの繰り返しですが、世界にこれだけの問題があり、それらは今すでにある技術を「活用」することで、解決できる可能性が高い(注2)。「手段」に新しさを求めてやみくもに技術を研究・開発するのは止め、「課題」にフォーカスして結果につながるアイデアを出せ、ということです。
第一回は、選択するかどうかのガイダンスを兼ねているので、このような内容となりました。どういう問題意識を持っている人に、受講して欲しいか。それを説明した、ということです。次回は「特許情報分析」の話をします。一人一台PCがありますので、実際に作業をしながら、体験的に学んでもらいます。
※注1) 例えば、妹尾氏の著作「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」など。
※注2) E.F.シュマッハー「スモール・イズ・ビューティフル」で提案されている「ミドルテクノロジー」の考え方に近い。