「発明塾®」へようこそ!: 1月 2014

2014年1月31日金曜日

発明塾京都第165回開催報告~「先行技術の壁」を超える

今回は、春休みに取り組む課題の説明会を、開催しました。

企業で実際にどのようにして開発が進むか、その際に知財の問題がどのように取り扱われるか、少しでも具体的なイメージを持ってもらえたとしたら、良かったかなと思っています。


また「シンプルな製品にも、技術と知財が詰まっている」ことも感じてもらい、技術に興味を持ってもらえたなら、更に良かったかなと。



さて、今回の課題は「技術的にはシンプルだが、知財的には極めて難しい」ものです(注)。


丸島先生が、その著書「知的財産戦略」のP39-P44で書いておられる、「Vs ゼロックス」そのもの、



「先行技術の壁を超える」

ことが、必要とされます。今回突破すべき特許網は、ざっと400件。多いと見るか少ないと見るか。最新の特許情報分析ツールも駆使しますから、当時キヤノンの技術者/知財担当者が経験した苦労に比べたら・・・


さらに我々には既に、発明法そのものに関する膨大な蓄積が有ります。ですので、僕の経験上、



「特許分析さえ済めば、必ず答えは出る」

と思っています。今一度、「知的財産戦略」と「キヤノン特許部隊」を読み返し、進め方について明確かつ具体的なイメージを持っておいて下さい。



では、次回から本格的に始めます。週の前半には、特許解析の結果が出ますので、まずはその解説から入ります。


「特許情報分析を駆使し」
「権利情報を技術情報に転換し」
「先行技術の技術思想の本質を見抜いて」
「壁を設定し」
「それを、独自の発想で乗り越える」

発明塾の「総決算」のような春休みに、なりそうです。

お楽しみに!


発明塾/内外の勉強会で、僕がやっていること。
「事業を強くするために、知財をどうすべきか」
常にそれを真剣に議論し、実践しています。


※ 注) 「だからこそ」かもしれませんが。



2014年1月28日火曜日

塾長の部屋(61)~「よい報告書の条件/精読論」

少しイレギュラーですが、仕事にも関係が有ることですので、敢えて平日に。

日頃お付き合いがある皆様も同様と思いますが、そこそこの立場になると、興味があるから/情報が必要だからといって、外部のセミナーに情報収集に行くことは難しい。僕もここ数年、いわゆるセミナーに、ほとんど参加していない(注1)。

しかし、情報が入らないのは困るので、適切な人にお願いして行ってもらい、レポートという形で報告を受ける。ここ2年ほどは、このスタイルですっかり固まっている。最初は不安でしたが、結論、

「よいレポートは、おそらく自分が行っても解らなかったであろうことが、わかる」

不思議な話ですが、そう思います。現在定期的にお願いしている、ある方のレポートは、もはや「アート」とも呼べる、素晴らしいものです。

では、もう少し噛み砕いて「よいレポートの条件」とは、なにか。レベルの低い話から順に行きましょう。


1.「認知」に対して、基礎的な注意が払われている
例えば、「日時、報告者、場所」などの基礎的な情報すら無いレポートを、部下や同僚から受け取ったことが有ります。これは問題外として、少なくとも、

「事実と意見」

ぐらいは、しっかり分けて書いて欲しい。しかし、これが出来ない人も、意外と多い。結論が先とか、toDOを冒頭に書くとか、目的によって違う部分は、「目的に応じて」書いて欲しいですね。

心理学用語で「認知(的)負荷」と呼ぶようですが、「読む気がしない」「読んでもイマイチ頭に入らない」レポートは、時間泥棒呼ばわりされても、仕方ないでしょう 笑)

ちなみに、学生さんの課題レポートや、発明提案書も同じですよ!(注2)


2.目的に応じた「+α」の情報がある
これに気づいたのは、実はその方のレポートではなく、弊社の若いスタッフのレポートを読んだ時です。

「彼、いいレポート書くな」

と思い、その理由を調べるべく色々なレポートを見比べると、彼は、

「今回のセミナーで言われていたことについて、関連する資料がXXあり、そこにYY書かれていました、ご参考」

という「+α」を、絶妙な位置と配分で織り込んでいました(注3)。レポートを読んでいる人の行動の

「一歩先」

を見た「+α」の情報、これは良いレポートの条件かも知れません。つまり、

「誰が読んでどう使うのか」(レポートの目的)

これが無いレポートは、当然「読めない、使えないレポート」になります。彼は、なかなか優秀ですね。いったい、どこで身につけたのでしょうか。


「心眼」=Mind's eye とは、
よく言ったものです


他にもありますが、次の話題に行きます。では、良いレポートをどう使うか、です。

「ふーん」

だと、「書く方も読む方も」時間の無駄でしょう。僕は、ある程度自分がほしい情報なり、「少し引っかかった=!?!?」内容があるレポートは、

「ノートに貼って分析し、更に深堀りする」

ことにしています。タイトルで「精読」と言ったのは、この作業です。もともと英語を教えていた関係か、はたまた設計で鍛えられたのか、「一字一句」見直す中で見えてくるモノがあり、それが重要であることが、身に沁みています。

それが誰の文章であろうが(注4)、一字一句丁寧に見直します。

「なぜこの表現、言葉なのか」(言い換え)
「この言葉は必要なのか」(削除)
「並列関係ではなく、因果関係ではないのか(その逆も)」(関係性)

など、言葉自体の存在、代替、関係を一つ一つ確認する。僕はこれを「精読」と呼びます。文章のチェック法にも使えますが、

「書かれている内容を理解し、その意図を深いところまで確認する」

ために、欠かせない作業です。この作業で「仮説」を立てた上で、レポート作成者に質問したり、念押しのコメントを出して内容や意図を確認し、新たな情報を引き出します。

もとはと言えば、「受験英語」の勉強の過程で身につけたスキルであり、それを教えるためにさらに「体系化」したものですが、社会に出てから、むしろ大いに役に立っています(注5)。

当時の教え子は、今でも僕が「ノート」を使っていることに驚くかもしれません。ツールはともかく、「精読」から「他の人には見えない情報を取り出す」以外に、先に行く方法は無いかな、というのが僕の今の認識です。

「他の人には見えない、何か」

を掴みたい。それだけです。僕が特許情報分析を、いくつかのパターンに整理した上で「駆使」するのも、それが理由です。

皆さんも是非、「精読」を通じて「自分にしか見えない何か」を、掴んで欲しいですね(注6)。



※ 注1) もっとも、川崎重工でオートバイの設計をしていた時も、外部のセミナーには一度も参加しなかったのですが。

※ 注2) 発明塾で推奨しているトレーニング書は「論理コミュニケーション」(梅嶋 著)。中学?か高校?で実際に使っているとのことで、さすがに完成度が高い。

※ 注3) そういえば、コマツ時代の先輩も同じことをやっていて、当時真似していました。

※ 注4) 特に塾生さん/学生さんのまとめやレポートは、ほとんどをこの形で分析し、次の講義に活かしている。

※ 注5) 甲斐塾の関係者の方々と、駿台予備校の英語科講師の方々、特に表三郎先生に、今でも大変感謝しています。思い返せば、受験勉強の内容や方法論のほとんどは、今でも非常に役に立っています。

※ 注6) 塾生さんには「僕の方法を真似ても意味が無いかもしれない」こと、「自分なりの”熟達”=Masteryの手法を編み出し、繰り返し、改良すること」を、常に話していますよね。


2014年1月25日土曜日

発明塾京都第164回開催報告

今週は、試験期間前/論文提出前ということもあってでしょうか?少なめの人数で開催しました。

既に告知しているように、今月で今のテーマは終わりですので、発明提案書(Solution Report:注)の仕上げ作業を急ぎましょう。

ほとんどの大学生の提案する「発明」が、僕が「小学生の夏休みの工作」と呼ぶ、「単なる寄せ集め」発明になってしまう理由の一つは、特許要件になっている「進歩性」が理解できていないからです。


進歩性を理解するには、自分の発明の「解決している課題」「解決手段の構成要素」「効果」を整理し、先行技術と厳密に比較し、どこに発明の本質があるのかを抽出し、それを中心に技術思想として再構成する作業が必要になります。

それは、誤解を恐れずに言うなら、ある人物の映った写真を切り刻んで再構成し、キュビズム時代のピカソの絵のようにする作業です。ある種の「アート」だといえるでしょう。

もっとも、ピカソほどのものを求めているわけではありませんので、適切なトレーニングを行えば、大半の人がこの能力を身につけられることが、僕には分かっています。


偉大な芸術家の著書、素描から、偉大な作品を
完成させるのに必要な技術を「リバれる」かどうか

あとは、地道にそのトレーニングを行うかどうかだけでしょう。一見「味気ない」基礎的なトレーニング/スキル習得を、どれだけ計画的かつ自主的に実行するかが、問われているわけです。例えば、なんらかのスポーツで成果を出そうとした経験があれば、判るはずです。

「発明」が、脳という「体」の使い方である以上、各種スキルを順序良く積み上げていくことと、それぞれのスキルを常に向上させていくこと以外に、上達の道はありません。


そして、各自が塾に「来ていない時間」の過ごし方次第で、塾の時間がより充実したものになるかどうかが、決まります。

次回は、春休みに取り組むテーマについての説明会を兼ねます。発明提案書が仕上がっていない人は、当日までに仕上げ、気持よく次に進めるようにしましょう!



※ 注) 「ここで言う」発明提案書は、「思いつきのメモ」でも「面白い技術の紹介」でも「興味深い発見の報告」でもありません。「こういう技術思想を、このように権利化すれば、武器として役立つのではないでしょうか?」というものでなくては、ならないのです。



2014年1月19日日曜日

発明塾京都第163回開催報告

今回も、京都は寒かったですね。

現在取り組んでいるテーマは、1月末で終了とし、2月からは新しいテーマに取り組みます。「先行技術の壁を乗り越える」という、「キヤノン特許部隊」の本そのままの取り組みを行う予定ですので、お楽しみに。

さて、今回の討議では、各自の発明提案書に基づい議論しました。特に「何を課題として定義するのか」について、先行技術や背景技術をたどりながら、一つ一つ論理的に整理することの重要性をおさらいしつつ、進めました。

また、最近お休みだった「知財戦略問題集」は、中級を始めました。こちらも、各自しっかりまとめておいてくださいね。

それでは、次回も宜しく!

大学時代にやるべきことは、「朝活」でも
「イベント実行員としての実績を積む」ことでもなく、
一生使える「メタな方法論」をつくり上げることです。



2014年1月11日土曜日

塾長の部屋(60)~「学生の学びを設計する」/立命館大学「発明講義」第14回講義から

早いもので、立命館大学での2013年度講義も第14回となりました。前回のレポート発表/討議の結果を踏まえて、全てのGrが「改善された」レポートを提出してくれました。最終評価は、このレポートで行います。


さて、以前もこのブログで書きましたが、

「成績評価は、少なくとも今の大学生の”学び”にとって、阻害要因にしかなっていない」

というのが僕の認識です。

「いい成績が取れるかどうか」

に集中するのではなく、

「身につけたいと思っていたことが、本当に身についたかどうか」

を、

「自分の基準で」

判断して宣言し、授業を終えるべきだと僕は考えています。彼らが「身についた」というのであれば、僕の責任は果たされたことになりますし、「身についていない」と感じているのであれば、もっと工夫が必要、ということになるでしょう。


ですので、僕は必ず講義の最後に

「そもそも皆さんは、目的としていたことが身についたのでしょうか?」

と、自らを振り返ってもらう時間を、設けることにしています。


では、今回の受講生の「振り返り」を、少し見てみましょう。


★Q1)「今回の講義で、上手く出来たこと、上手く出来なかったことは何ですか?」

これに対して、

・上手く出来たこと
「とにかくアイデアが多数出せたこと」
「レポートとしてアウトプットを出せた」
「Grをまとめることができた」
「よい先行技術/特許を探し出せた」
「創造的な議論の仕方を実践できた」

・上手く出来なかったこと
「行き当たりばったりになった」
「時間がかかった」
「Grを上手くまとめられなかった」
「主観が入ってしまった」
「ロジックが詰め切れなかった」
「悩んだ時間が多かった」

のようなコメントが寄せられました。僕の講義では、常に「Grとしてのアウトプットを追求するように」指示を出していますので、Grワークに関する課題に言及していた学生さんが多かったですね。


★Q2)「今回の講義で学んだこと、これから学びたいことは何ですか?」

これに対して、

・学んだこと
「チームワークの大切さ」
「発想法」
「ロジックの重要性」
「マニュアルを見ることではなく、作ることが重要、ということ」
「質問に対する、正しい返答の仕方」
「特許情報検索の重要性」

・これから学びたいこと
「MBA」
「リサーチ力」
「個人の力の引き出し方」
「リーダーシップ」
「他人のアイデアを昇華させる方法」
「考えた靴を、実際に売ってみたい」

のようなコメントが寄せられました。MBAやMOTに興味をもった人がいたことから、「MOT入門科目」としての一定の役割は果たせたのかな、と感じました。


素晴らしいチームが、素晴らしい作品を生み出し、
世の中を動かす。
「自分も、良いチームを作りたい」と思ってくれたなら
僕の講義は大成功です。後は彼らに任せましょう。

これも繰り返しなのですが、「マーケティング・リサーチ」の講義だから、技術のマーケティングについて教えればそれで良いのだ、とは、少なくとも僕は考えていません。その過程で必要になる、

・論理的思考能力
・情報検索
・組織運営能力(リーダーシップやフォロワーシップなど)
・創造的な議論の手法
・発想法

など、全てのことを「講義/演習に巧妙に織り込んで」教える必要があります。でなければ、誰かが教壇に立つ意味は無いでしょう。本を読ませ(もしくはeラーニング受講)、自学自習させればよいのです。

Grワークも、学生だけで出来る部分もあるでしょう。

教壇に立つ人間が果たす役割とは、「学生の学びを設計する」ことだと、僕は思っています。機械を設計するのと同様に、いや、それ以上に面白い仕事です。


前期の大学院講義「先端科学技術とビジネス」を受けた人は、「楠浦さんの講義なのに、楠浦さんが一コマも担当しないってどういうこと?」と思ったかもしれません(正確には、イントロの第一コマだけ担当しました)。しかも僕は非常勤です。にも関わらず、講義の講師は全て(僕が趣旨を説明し、お呼びした)ゲストが担当する。普通はありえないでしょう。これを許可いただいた立命館大学大学院関係者の懐の深さに、とても感謝しています。ですが、受講した人には全員

「僕が設計した講義は、”やはり”ちゃんと僕の講義になっていた」

ことを、感じてもらえたと思います。もはや、

「前で、力いっぱい面白いことを言えば、それでよいのだ」

という、前近代的な「漫談講義」の時代は、もう終わりです。来年度はさらに先へ、行きたいと思います。今年受けた学生が「来年受ければよかった」と思うような、講義になります。

もちろん、来年もう一度受けても構いません。念の為、シラバス(仮)を以下に掲載しておきます。

よろしく!


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「マーケティング・リサーチ入門」(理工学部/情報理工学部3回生対象:後期開講科目)

1.授業の概要と方法
本講義では、MOT入門科目としての位置づけから、日本企業が技術力を生かせない/収益に結び付けられないという「課題」に着目し、「技術を創造し、普及させるために必要な考え方、発想法」について、講義と演習を行う。講義/演習内容は、楠浦が主催する「発明塾」が、4年間掛けて開発してきた手法の一部である。

・「発明塾」HP http://edison-univ.blogspot.jp/

全ての技術系学生、MOTやMBAを目指す学生に受講して欲しい。

例えば大学生にもわかりやすく、同じ課題意識を取り扱った書籍として「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」(妹尾)がある。ここでは、「単に良い技術」「単に良い製品」「単に良い発明」では意味がなく、「知財マネジメント」が重要であると、アップルやインテル、グーグルなどの事例を交えた解説がある。もちろん、類似の指摘は、多くの識者によってなされている。

一方で、「普及する仕組みを折り込んだ」製品/技術の開発を如何にするべきか、という具体論はほとんど示されていない。本講義では、

・発想法
・知財マネジメント
・特許情報分析
・(国際)標準化と事業戦略

などの観点を、実際に皆さんに発明を生み出してもらいながら、身につけていただく。また、特許情報は「ビッグデータ」の一つとして「研究動向分析、企業動向分析、投資分析」に、すでに活用されている。そこで必要な「データマイニング」の基本的考え方(例えば共起分析)も、本講義で取り上げる。データ分析に興味がある人の参加も、大歓迎である。


2.受講生の到達目標
本講義を通じて、以下の知識/スキルを身に付けることを目標とする。

・発想法の基礎
・特許検索
・特許情報分析
・知財マネジメントと標準化戦略の理解
・Grワークの進め方

なお、本講義は基本的にGrワークで進める。



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2014年1月10日金曜日

発明塾京都第162回開催報告~技術は「事業」か「知財」にする/「知識創造」のススメ

2014年の第一回は、雪の舞う中での開催となりました。寒かったですね。
京都は毎年、1月後半から2月中旬までが最も雪が積もる時期で、卒論/修論提出の日はいつも雪だった、という記憶があります。

さて、今回もアイデア討議の後、簡単な講義を行いました。内容は、

①技術経営における「知財」の位置づけ
②産業構造と知財

の二つです。本日の立命館大学での講義用に準備したTopicなのですが、せっかくなので・・・ということで、塾でも取り上げました。


①は、日本ライセンス協会の会長を務めておられる、原嶋先生のお話の「ある種の」受け売りです。XEROXで研究企画をしておられたとのことで、私が常に言っている「I(発明)&P(特許)&R(研究)&D(開発」論に近いことを、その時代から実行しておられた、偉大な先人です。

以前一度、直接お話を伺う機会に恵まれ、非常に丁寧にご指導頂きました。原嶋先生曰く、

「企業経営の立場から、技術の成果を活用する手段の一つが知財(もう一つはもちろん、”事業”)」

とのこと(注1)。論旨明快で、その一言を肴に、一時間以上議論させていただきました。


②は、小川先生の理論を「発明塾的」に解釈したものです。小川先生は、各所で「結合公差」という言葉を使っておられます。この概念が「知財がますます重要になる」ことを示す、重要な鍵です。

「結合公差が縮小するような技術体系」

であれば、いわゆる職人的「技術/ノウハウ」が重要となり、積み重ねや努力が競争力に結びつきますが、

「結合公差が拡大するような変化」

が生じると、そこに現れるのは「技術」ではなく「技術思想」であり、「特許」の出番となります。MOTでこれを教えないのは「かなり」問題であると、この一年ほどで確信したため、来年度の立命館大学での講義では、上記の概念を基に「技術と経営と知財」を整理しなおして教えたい、と思っています。

脱線しました。


僕は「発明」は「技術思想」である、という丸島先生の著書の言葉を見てまず、「なるほどそういうことか」と思いました。そして、小川先生の「結合公差」論を聞いて、上記の認識に至りました。その背景には、僕は「エンジン」や「ギヤボックス」という、極めて摺り合わせ度の高い「技術」を開発していた、という事があります。


日本の技術が高い競争力を持っていた
「古き良き時代」の技術書達
(僕の宝物の一つです)

そういう意味では、「発明塾」で教えている様々な理論は、先人の蓄積を僕の経験を通して「解釈」し直して出来たもの、と言えるでしょう。全ては「先人の蓄積」の上にあるのです。しかし、「自分の知」にしていくこと/それをさらに未来へ「贈る」ことを、忘れてはいけません(注2)。


ぜひ塾生のみんなも、「受け売り/切り貼り」に終わらず、「自分の発明活動を通じて理解を深め、新たな”知”に達する/創造する」という、「知識創造」を行って欲しい。



※ 注1) 私の理解です。

※ 注2) 「先物市場から未来を読む」(注3)の著者であり、金融先物取引市場の父「レオ・メラメド」(シカゴ・マーカンタイル取引所 元理事)が、同じことを言っています。単に誰かの言っていることを、受け売りで流すのではなく、そこに「自分の知」を付け加えて未来に渡せ、と。全く同感です。

※ 注3) 「知財と金融は、これからの技術者の二大必須リテラシー」ですから、ぜひ読んでみてください。



2014年1月4日土曜日

京都大学「ものつくりセミナ」(2013年)レポートを読んで~何のための「機械工学」

本年も、題記講義のレポートを送っていただきましたので、目を通させていただきました。出さないといけないからとりあえず出した風のもの、熱心に感想を書いてくれたもの等、様々でしたが、今を生きる大学生が「いったい何を考えているのか」を知る上で、非常に貴重な資料となりました。

・2013年度の講義について(報告が手抜きでした、ごめんなさい)
発明塾京都第150回開催報告/京都大学「ものつくりセミナ」講義報告

・2012年度の講義/レポートについては以下
京都大学「ものつくり演習」講義報告
京都大学「ものつくり演習」講義レポートを読んで~在るために働く(B価値)


昨年の報告でもお話したように、この講義は僕が在学中から存在する講義で、僕自身はこの延長線上の講義「設計製図演習(3回生向け)」で、三菱電機の重電部門の方から「ブレーカ」の設計について、とても丁寧にかつ詳しく教えて頂き、「設計」(注1)という仕事に興味を持った。

そのことがあったので、川崎重工時代に「設計製図演習を担当してくれないか」と依頼があった(注2)時に、なんの構想もなかったが二つ返事でOKして、現在に至る。

その間、立場や仕事の内容、もちろん年齢も大きく変わったが、「想い」は当時と変わらない。

「仕事が如何に大変で、だからこそ面白いものか」
「ものづくり、そして設計という仕事を知ってほしい」
「社会に出て働くことの意味」
「なんのために勉強をするのか(を、時間を作って自分で考えてほしい、ということ)」

これも繰り返しなのですが、直接「贈った」メッセージを抜粋したい。一部は、弊社 TechnoProducer の価値観としても、明示しているものである。

・失敗しても構わない、学ぶ姿勢があれば、それにより必ず成長する
・個人の成長なしに、組織、地域、国家の成長はない
・25-65という人生の黄金期の、平日の8時-17時という最もいい時間を費やす以上、「仕事」で成果を出すかどうか、そこでいかに「よい目標を立て、達成するか」「成長できるか」で人生は決まる
・「もっと稼げばよかった」と、死に際に言う人間はいない


講義全体を通じて


さて、前置きはこれぐらいにして、レポートの内容に移りましょう。

1.レポート課題
レポート課題は「世界的に早急に解決が求められている課題で、最も重要と思うもの」を挙げてもらって、機械工学がその解決にどう貢献できるか、を論述してもらう内容でした。毎年同じです。

学生さんのレポートでは、エネルギー、水/食料、介護、貧困などの課題が挙がっていました。僕がこの問いで意図したことは「まず課題を知ってほしい」ということに尽きます。それが、あなたに解決できるかどうか、いますぐ解決できるかどうかは、問題ではありません。「知る」ことが重要だと思っています。

また、「いますぐ解決しよう」と思わないほうがよいことも、「今の」僕ならばこそ言えることでしょう。技術者として「技術で世界の課題を解決すること」を目指すのであれば、むしろ「時間を掛け、自分の知識と頭脳を、最大限レバレッジ」する手法を身につけ、実行することです。「すぐに解決したい」という気持ちはわかりますが、それは結局「遠回り」をすることになります。


「そうやって焦って、無力感に苛まれ、何もせずに舞台を去っていった人が、
如何に多いことか」

上記の想いを込めて、今年の講義は「頭脳をレバレッジする」という言葉を、入れました。


2.講義の感想
全体的なコメントとして、

「眠たくならない授業ははじめて」
「話が上手く、引き込まれた」
「テンポが良く、ついて行くのに必死」

など、「面白かった」というコメントが多かったのは、昨年と同様です。
昨年と少し異なる点は、

「大学で何をすればよいのか分かった」
「自分が大学でやるべきことが明確になりました」
「紹介いただいた本を読み始めました/読み終えました」
「(キヤノン特許部隊、を読み)知財に興味を持ちました」

のように、具体的な進路や大学でやるべきことについての示唆を得た、というコメントが多かったことです。1時間半の講義で話せることは知れていますので、参考図書を多く紹介したのが、結果的に意欲的な学生の心に「灯を付けた」事に、なったのかもしれません。


参考までに、紹介した参考図書と関連するスライドをリストアップしておきます(塾生には、PDFで講義資料を送っていますが)。

<知財や技術に関するもの>
・「雲を掴め」「雲の果てに」
IBM/富士通関連、知財は産業や国家のあり方を変えてしまう
・「キヤノン特許部隊」
知財のお仕事、の入門書として
・「ものづくり経営学」「国際標準化と事業戦略」
技術を広げ/収益を得る仕組み、これを知らずして技術の仕事は出来ない
・「21世紀の挑戦者 クアルコムの野望」
クアルコムの戦略を知り尽くすことが、MOTそのもの
・「ゲノム敗北」「ヒトゲノムを解読した男 クレイグ・ベンター自伝」
ヒトゲノムで負けた日本はiPSで勝てるのか?という視点を持ち、過去に学べ


「知財は交渉力」


「知財」というフレームワークを入れる


技術者の仕事は「知のレバレッジ」
それこそが「知財戦略」


<なんのための技術か、ということ>
・「スモール イズ ビューティフル」E.F.シュマッハー
説明不要ですよね
・「自動車の社会的費用」
機械工学=クルマを作ればいい、という時代は終わり


「技術」の価値は「Issue」で評価される
Eben Byer のキノコ梱包材Video を見た後に)

<人生について>
・「社会起業家」「人生の短さについて」「完全なる経営」
何のために働くのか、を大学時代に考えておくこと


「経営」を志す人も増えてくれれば、僕としても嬉しい


僕は、「知/技術をレバレッジする」ことが、特に工学を専攻する学生のミッションであり、義務であるとすら思っている。「工学」教育を受けて、その才能を持ち合わせているのであれば、ぜひ挑戦して欲しい(注3)。

「その与えられた才能を最大限発揮することは、あなたの義務である」

というのが、僕の学生へのメッセージである。そして、それを「組織」として行うために、「経営者」が必要とされる。一人で出来る事は知れている。僕が「技術には経営が必要」と、繰り返し言う理由である。技術者が経営者になるべき理由も、同じである。


伝わったかどうかは、彼らの今後の活躍により、証明されるでしょう。

来年も、新たな学生さんに出会えることを、とても楽しみにしています。



※ 注1) 僕の設計のイメージは、「図を書く」(講義受講前)⇒「要するにニュートン法」(講義受講後)となり、工学の本質は「設計にある」と確信しました。いまでも、講師として丁寧に指導してくださった三菱電機の方に、とても感謝しています。メガネをかけてちょっと華奢な感じの40歳ぐらいの方で、「いかにも設計者」という感じの方でした。設計の課長さんだったと思います。
当時三菱電機は、テレビと携帯電話が絶好調で「重電部門は肩身が狭くて、縮小の一途なんですよね」と、工場見学の時に「寂しそうに」おっしゃっていたのが、いまでも脳裏に焼き付いて離れません。

※ 注2) 当時ガスタービン部門の役員をしておられた大槻氏(元オートバイ部門)直々に依頼が有ったから、ということもありますが・・・入社2年目の新人でしたし。突然、開発部長と総務部長に呼び出されて、何事かと思ったのを憶えています。

※ 注3) この「Noblesse Oblige」論にアレルギーのある人は、とても多い。また、勘違いしている人も多い。例えば過去、ある学生から「恵まれた人には責任があるという論には、賛同できません」というクレームを受けた。
よく聞くと「昔、文科省のエライさんに”国公立大学は税金がかかっているんだから、ちゃんとやってくれないと困る”的な文脈で”Noblesse Oblige”と言われた」ことが、彼に誤解を生んでいたことがわかった。これは、大人の責任である。
「能力を最大限に発揮することは、すべての人の義務であり、むしろ、幸せな人生を約束するものである」と、僕はマズロー風に考える。




2014年1月1日水曜日

塾長の部屋(59)~「”完全なる経営”で、マズローが試みたこと」

2014年、新年あけまして、おめでとうございます。
本年も、どうぞよろしくお願いします。

例年、元日は「一年を通じて、最も静かで邪魔の入らない日」として、ミッション・ステートメント(注1)の書き直しなどに充てる。今年もそうだったのですが、その過程で読み直した「完全なる経営(A.H.Maslow)」について、少し取り上げてみたい。


と言っても、400ページを超える大作でありながら、メモの寄せ集めである本書をヒトコトで語ることは難しい。少し「ズル」をして、監訳者金井先生の解説から抜粋引用して、話を進めたい。



マズローと言えば「欲求段階説」。そして「自己実現」。マズローの定義によれば、


「自己実現とは、自分がなしうる最大限のことをしていること、しかも、している(doing)というより、自分の存在(being)に関わっているという意味で、全面的に自分らしくなっている状態」(P406)

「才能や能力、潜在能力などを十分に用い、また開拓していること・・・自分自身を実現させ、自分のなしうる最善を尽くしているように見え・・・自分たちに可能な最も完全な成長を遂げてしまっている人々、また遂げつつある人々」(P422)

を指している。いささか歯切れが悪い(ことはマズローも認めている)。これは、


「好きなことをやりたい、というような単純なもの」(P406)


とは異なる。


「自分の存在の中から沸き上がってくることを実現する・・・実現する対象は、だいたいは社会通念とは違うものが多い」(P407)


いずれにせよ終わらないので、「自己実現」はこれぐらいにして、次に進みたい。




(画像をクリックすると Amazon.co.jp のサイトへ移動します)
Amazonのプログラムを利用して画像を引用することにしました。
たしか4冊目ですが、既にボロボロ・・・
今年買い直す予定です


マズローは「いい社会」「いい人間」とは何か、という問いを立てている。


「いい人間は、一般に彼の成長する良い社会を必要とする・・・人間の可能性の完全な発達、完全な程度の人間性を育成するような社会がいい社会」(P413-414)


「頭のいい」人なら、答えになってないと「イラッと」する回答である。



マズローが、なぜ「企業経営」に興味を持ったのか。


「カナダという社会全体をそのように具体的実在物として感じることは難しい」(P414)

「つまり、一人ひとりの個人は社会という”実体”に出会うわけではない」(P414)

「よい社会」と言いながら、その社会を個々人が実感することは、難しいと述べている。そして、出てくるのが「仕事」である。


「その意味で、仕事とは”社会と通じる窓”であり、会社とはそこで働く人が成長・発達する場でありうる」(P414)

「大半の人が多くの時間を会社という組織で費やしていることを考えれば、”いい社会とはなにか”という問いをもう一歩、具体的なレベルに推し進めるだけで、”いい組織体(会社)の特徴とはなんなのか”という経営学の問いにたどりつくであろう」(P414)

「完全なる経営」は、このような文脈で書かれた本である。



最後に、自己実現に関する「B価値」「B欲求」について、「モティベーション(動機付け)」という言葉との対比(注2)で、以下のように解説がある。


「モチベーション(動機付け)とは、自分たちに欠けている基本的な欲求を満足させるために努力することを指すのであり・・・自己実現のレベルでは、ひとは通常の意味で動機づけられて努力しているのではなく、あえて言えば”発達しつつある”のである」(P423)

「ないものを埋めること(欠乏動機、D動機)によって人を短期的に動かすのでなく、自分の存在価値を示していくこと(存在動機、B動機)によって、長期的に探し続けるものなのだ」(P423)


せっかくなので、最後にマズロー自身の言葉も引いておきたい。


「健全な人間は仕事を通じて成長し、自己実現に向かうことができる」(P1)
「優秀な人間がきちんとした組織に加われば、まず仕事が個人を成長させ、次に個人の成長が企業に繁栄をもたらし、さらに企業の繁栄が内部の人間を成長させる」(P2)

なぜ企業に「成長」が必要か、それは「正しい組織は、成長せざるを得ないから」である。これも、答えになっていないと叱られそうな答えであるが、僕はアタマが悪いので、勘弁して欲しい。

「人間だれしも仕事に従事する」(P2)


のだから、その人にとって極めて重要なことであり、また同時に「社会を良くする」ことにも繋がる。

「この上ない安らぎを得たいのであれば、音楽家は曲を作り、画家は絵を描き、詩人は詩を読む必要がある。」(P4 太字は筆者)
「人間は自分がそうありうる状態を目指さずにはいられないのだ。こうした欲求を自己実現の欲求と呼ぶことができよう・・・。それは自己充足への欲求、すなわち自己の可能性を顕在化させようという欲求、なりうる自己になろうとする欲求である」(P4)


僕がこの本を手にしてから、はや10数年。まだまだ先は長いが、「発明塾」と弊社「TechnoProducer株式会社」の経営を通じて、「いい社会」の実現に向けて少しは動き出せた、この6年間。


今年もよろしく。




※ 注1) 「7つの習慣」参照


※ 注2) 本書の言葉を用いれば「モチベーション(動機付け)」とは、D欲求/D価値(何かが欲しい、何かが足りない)に基づいた考え方、ということであろう。







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