・2013年度の講義について(報告が手抜きでした、ごめんなさい)
発明塾京都第150回開催報告/京都大学「ものつくりセミナ」講義報告
・2012年度の講義/レポートについては以下
京都大学「ものつくり演習」講義報告
京都大学「ものつくり演習」講義レポートを読んで~在るために働く(B価値)
昨年の報告でもお話したように、この講義は僕が在学中から存在する講義で、僕自身はこの延長線上の講義「設計製図演習(3回生向け)」で、三菱電機の重電部門の方から「ブレーカ」の設計について、とても丁寧にかつ詳しく教えて頂き、「設計」(注1)という仕事に興味を持った。
そのことがあったので、川崎重工時代に「設計製図演習を担当してくれないか」と依頼があった(注2)時に、なんの構想もなかったが二つ返事でOKして、現在に至る。
その間、立場や仕事の内容、もちろん年齢も大きく変わったが、「想い」は当時と変わらない。
「仕事が如何に大変で、だからこそ面白いものか」
「ものづくり、そして設計という仕事を知ってほしい」
「社会に出て働くことの意味」
「なんのために勉強をするのか(を、時間を作って自分で考えてほしい、ということ)」
これも繰り返しなのですが、直接「贈った」メッセージを抜粋したい。一部は、弊社 TechnoProducer の価値観としても、明示しているものである。
・失敗しても構わない、学ぶ姿勢があれば、それにより必ず成長する
・個人の成長なしに、組織、地域、国家の成長はない
・25-65という人生の黄金期の、平日の8時-17時という最もいい時間を費やす以上、「仕事」で成果を出すかどうか、そこでいかに「よい目標を立て、達成するか」「成長できるか」で人生は決まる
・「もっと稼げばよかった」と、死に際に言う人間はいない
講義全体を通じて
さて、前置きはこれぐらいにして、レポートの内容に移りましょう。
1.レポート課題
レポート課題は「世界的に早急に解決が求められている課題で、最も重要と思うもの」を挙げてもらって、機械工学がその解決にどう貢献できるか、を論述してもらう内容でした。毎年同じです。
学生さんのレポートでは、エネルギー、水/食料、介護、貧困などの課題が挙がっていました。僕がこの問いで意図したことは「まず課題を知ってほしい」ということに尽きます。それが、あなたに解決できるかどうか、いますぐ解決できるかどうかは、問題ではありません。「知る」ことが重要だと思っています。
また、「いますぐ解決しよう」と思わないほうがよいことも、「今の」僕ならばこそ言えることでしょう。技術者として「技術で世界の課題を解決すること」を目指すのであれば、むしろ「時間を掛け、自分の知識と頭脳を、最大限レバレッジ」する手法を身につけ、実行することです。「すぐに解決したい」という気持ちはわかりますが、それは結局「遠回り」をすることになります。
「そうやって焦って、無力感に苛まれ、何もせずに舞台を去っていった人が、
如何に多いことか」
如何に多いことか」
上記の想いを込めて、今年の講義は「頭脳をレバレッジする」という言葉を、入れました。
2.講義の感想
全体的なコメントとして、
「眠たくならない授業ははじめて」
「話が上手く、引き込まれた」
「テンポが良く、ついて行くのに必死」
など、「面白かった」というコメントが多かったのは、昨年と同様です。
昨年と少し異なる点は、
「大学で何をすればよいのか分かった」
「自分が大学でやるべきことが明確になりました」
「紹介いただいた本を読み始めました/読み終えました」
「(キヤノン特許部隊、を読み)知財に興味を持ちました」
のように、具体的な進路や大学でやるべきことについての示唆を得た、というコメントが多かったことです。1時間半の講義で話せることは知れていますので、参考図書を多く紹介したのが、結果的に意欲的な学生の心に「灯を付けた」事に、なったのかもしれません。
参考までに、紹介した参考図書と関連するスライドをリストアップしておきます(塾生には、PDFで講義資料を送っていますが)。
<知財や技術に関するもの>
・「雲を掴め」「雲の果てに」
IBM/富士通関連、知財は産業や国家のあり方を変えてしまう
・「キヤノン特許部隊」
知財のお仕事、の入門書として
・「ものづくり経営学」「国際標準化と事業戦略」
技術を広げ/収益を得る仕組み、これを知らずして技術の仕事は出来ない
・「21世紀の挑戦者 クアルコムの野望」
クアルコムの戦略を知り尽くすことが、MOTそのもの
・「ゲノム敗北」「ヒトゲノムを解読した男 クレイグ・ベンター自伝」
ヒトゲノムで負けた日本はiPSで勝てるのか?という視点を持ち、過去に学べ
「知財は交渉力」
「知財」というフレームワークを入れる
技術者の仕事は「知のレバレッジ」
それこそが「知財戦略」
<なんのための技術か、ということ>
・「スモール イズ ビューティフル」E.F.シュマッハー
説明不要ですよね
・「自動車の社会的費用」
機械工学=クルマを作ればいい、という時代は終わり
「技術」の価値は「Issue」で評価される
(Eben Byer のキノコ梱包材Video を見た後に)
<人生について>
・「社会起業家」「人生の短さについて」「完全なる経営」
何のために働くのか、を大学時代に考えておくこと
「経営」を志す人も増えてくれれば、僕としても嬉しい
僕は、「知/技術をレバレッジする」ことが、特に工学を専攻する学生のミッションであり、義務であるとすら思っている。「工学」教育を受けて、その才能を持ち合わせているのであれば、ぜひ挑戦して欲しい(注3)。
「その与えられた才能を最大限発揮することは、あなたの義務である」
というのが、僕の学生へのメッセージである。そして、それを「組織」として行うために、「経営者」が必要とされる。一人で出来る事は知れている。僕が「技術には経営が必要」と、繰り返し言う理由である。技術者が経営者になるべき理由も、同じである。
伝わったかどうかは、彼らの今後の活躍により、証明されるでしょう。
来年も、新たな学生さんに出会えることを、とても楽しみにしています。
※ 注1) 僕の設計のイメージは、「図を書く」(講義受講前)⇒「要するにニュートン法」(講義受講後)となり、工学の本質は「設計にある」と確信しました。いまでも、講師として丁寧に指導してくださった三菱電機の方に、とても感謝しています。メガネをかけてちょっと華奢な感じの40歳ぐらいの方で、「いかにも設計者」という感じの方でした。設計の課長さんだったと思います。
当時三菱電機は、テレビと携帯電話が絶好調で「重電部門は肩身が狭くて、縮小の一途なんですよね」と、工場見学の時に「寂しそうに」おっしゃっていたのが、いまでも脳裏に焼き付いて離れません。
※ 注2) 当時ガスタービン部門の役員をしておられた大槻氏(元オートバイ部門)直々に依頼が有ったから、ということもありますが・・・入社2年目の新人でしたし。突然、開発部長と総務部長に呼び出されて、何事かと思ったのを憶えています。
※ 注3) この「Noblesse Oblige」論にアレルギーのある人は、とても多い。また、勘違いしている人も多い。例えば過去、ある学生から「恵まれた人には責任があるという論には、賛同できません」というクレームを受けた。
よく聞くと「昔、文科省のエライさんに”国公立大学は税金がかかっているんだから、ちゃんとやってくれないと困る”的な文脈で”Noblesse Oblige”と言われた」ことが、彼に誤解を生んでいたことがわかった。これは、大人の責任である。
「能力を最大限に発揮することは、すべての人の義務であり、むしろ、幸せな人生を約束するものである」と、僕はマズロー風に考える。