「発明塾®」へようこそ!: 9月 2013

2013年9月28日土曜日

塾長の部屋(52)~今年も立命館大学「発明講義」始まりました!

今日(注1)は、昨日開始した「立命館大学発明講義第一回(注2)」を振り返っておきましょう。

本題に入る前に、過去(2012年)のログを振り返ってみましょう(注3)。


・塾長の部屋(15)~衝撃(?)の立命館大学「発明講義」第一回
http://edison-univ.blogspot.jp/2012/09/blog-post_28.html

今年はもう少しソフトに、かつ「発明」や「知財」について学ぶことの重要性/意義/楽しさ?にフォーカスして、行いました。映像資料などは、同じものを用いています。NHKの影響でしょうか、今年は「TED」を普段から見ている、という学生さんが多かったですね。念のため字幕付きで流しましたが、字幕は不要だったかも。

昨年は第一回に取り上げた講義のルール(注4)、今年は次回、詳しく取り上げる予定です。今年重視するのは、

・「より能動的な学習」にすること
・「ノートをまとめることで、理解を深める時間を作りながら」進めること

ことです。いわゆる「詰め込み」「プレゼン」講義の排除ですが、「僕がその現場にいないと、決して教えられないこと」に絞って、じっくりと「議論」を積み重ね、その結果を「まとめて」もらうことで、「血肉」にして欲しいと思います。

ちなみに、多くの内容は、皆さんが就職するであろう殆どの企業において、「企業(教育)でも教わらないこと」なので、「一生の宝」に成るはずです。


なので、いつも通り、

・「調べれば分かること」
・「何かの本に書いてあること」

は、一切取り上げません。何よりも、皆さんの時間が勿体無い。集合学習において、調べれば分かることを説明することは、少なくとも二つの意味で「とんでもない無駄(と言うか損失)」です。僕は「犯罪行為」とさえ、思っています。

・「出席者全員の時間を無駄にするので、たとえその説明が1分で済むものであったとしても、実は30分40分の無駄になっている」

・「暇な時に調べれば済むのであれば、コストはかなり低い。しかし、講義時間は”学費”コストが掛かっている」

調べても絶対に出てこないような情報、僕自身のスキル/ノウハウ、勉強法そのものなどを、学んで欲しい。


今回の講義では、昨年以上に、

・「Intel は何故、ウルトラブックの宣伝をするのか」
・「エジソンが発明した白熱電球、最も収益を大きくするために、関連する特許を、どのように使えばいいのか」

といった、本質的な質問を通じて、「技術を売る」とはどういうことか、について考えてもらいました。Google や Apple の戦略に興味を持った人もいましたね(注5)。Qualcomm に関する質問で、「ARM」に関することを答えてくれた人がいました。

よく勉強してますねー。

いいことです。


授業は、「皆さんのもの」です。

「僕から何を引き出すか。」

それは、皆さん次第です。

「楠浦さんが持っているもの/楠浦さんしか持っていないものを、限られた時間内で、最大限引き出してやろう」

それが、本講義に臨む学生さんの、正しい考え方です。

See you next!



※ 注1) 先ほどまで、久々に Marshall Phelps の講演ビデオを見ていました。IBMの知財戦略に関する理解が深まったので、改めて見直すと、いくつかの部分について、気付きがありました。

・Keynote Speech by Marshall Phelps | October 21, 2011
http://opencanada.org/features/keynote-speech-by-marshall-phelps/


※ 注2) 正確には「マーケティング・リサーチ」です。理工系の学生が「自らの技術を普及させる」という観点で、発明・情報分析・知財と標準化を取り上げています。


※ 注3) 他の過去ログは以下。

・第3回講義
http://edison-univ.blogspot.jp/2012/10/blog-post_13.html

・第9回講義
http://edison-univ.blogspot.jp/2012/11/blog-post_24.html

・第13回講義
http://edison-univ.blogspot.jp/2012/12/blog-post_21.html

・最終回
http://edison-univ.blogspot.jp/2013/01/blog-post_11.html

・最終回を終えて(感想)
http://edison-univ.blogspot.jp/2013/01/blog-post_19.html

こうしてみると、昨年最後に話したことの一部が、今年の冒頭の講義になっています。


※ 注4) 発明塾と共通ですが、ルールは以下。

<講義のルール> 
①紙は配らない
②先生(せんせい)ではなく「楠浦(くすうら)さん」 
③Grワークがあるので、欠席は厳禁 

今年は、去年以上に資料を配らないことにしました。理由は「ノートを取ることが重要だから」です。それはそのまま、個々人の財産になります。 ②は当たり前なので、③ですが、これも当たり前ですね。周りに迷惑を掛けてはいけません。次に、ポリシー的な部分です。 

④世の中の大半の問題は、唯一解のない問題であるということを理解する 
⑤どんどん発言する 
⑥何を言ってもOK 
⑦他人の「意見」は否定しない 
⑧どんどん調べる(ググる) 
⑨随時質問OK

 ④も当たり前ですよね。高校までの勉強は基礎修練のための「箱庭」だっただけで、大学以降はそれを実際の問題に応用するフェーズ。大学と高校の違いは、システムのヌルさ(日本のみ)を除くと、ここにあります。
 ⑤⑥⑦はセットですね。唯一解が無いわけなので、どんどん考えて発言すればいい。別に調べてもいいし、一時話題になった「XX知恵袋」を使っても構わない(⑧)。あとで調べよう、と思って調べた試しがない人が大半でしょう。その場で調べるべきです。それでもわからなければ、どんどん質問(⑨)すればいいわけです。 
どんなに調べても、他の人に聞いても判らないこと、それこそが、頭をつかうべきこと(発明の対象)なのです。 社会人としては、さして特別なルールではありませんが、大学の講義としては少し「変わって」いるかも知れません。


※ 注5) 大変盛り上がる面白いトピックなのですが、関連書籍が多数ありますので、本講義で触れることは、断念します。



2013年9月27日金曜日

発明塾京都第148回開催報告~「事業/企業のライフサイクルに合った知財戦略」

今週の京都は寒かったですね。新学期も始まります、皆さん、体調を崩さないように。

さて、今回は、アイデアコンテスト締め切り直前ということで、駆け込みのアイデアに関する討議を終えた後、「発明に必要な知財戦略」について、取り上げました。


既に8月から、毎回少しづつ「古典的」な知財戦略から、より現代的な知財戦略理論まで、取り上げてきました。今回で「初級」は終わりですから、一度流れでまとめておくと良いでしょう。



今回取り上げたのは、ズバリ「IBMの知財戦略」(注1)。もちろん、全ては取り上げられないので、ある一つの観点から、「何故そういう戦略が成り立つのか/必要なのか」を、考察しました(注2)。


丸島先生は常に、


「強みを蓄積し、それを交渉力として活用し、事業を強くする」


と述べておられます。IBMの戦略は、まさにそれを「地で行く」ものです。「知財戦略の源流であり究極」と呼べるかもしれません。



IBMのケースを学べば、「相対的知財力」「ライセンス契約」「強みと弱み」「攻めと守り」など、知財戦略の基礎的な概念を、一気に学ぶことが出来ます。個人的には、IBMのケースと「クアルコム」のケースを学べば、スタートアップから大企業に至るまで、すべての企業が「より強くなる」ために必要なことは、学べると思います。


僕の知財に関する経験は、前職のベンチャー時代に遡ります。しかもそれは、割と苦い経験です。当時CTOであった僕は、技術に関する全ての責任を追っていたので、当然、「どういう知財を取得すべきか」「それをどう活用すべきか」などについても、自分なりに考える事が出来たはずです。


しかし当時は、知財戦略についてまともに学ぶこともなく、単純に、他社特許があれば避けることだけを考えていました。今から思えば、もっと知財を知り尽くしていれば、競合の技術を無力化したり、情報を入手したり、様々な打ち手があったのです。知財に関する「無知」により、大幅に研究開発、いや「経営」の選択肢を、狭めていました。


「今なら、もっと大胆な打ち手で、会社を飛躍させることが出来る」

そう思うと、非常に悔しさが残る4年間でした。


繰り返しですが、丸島先生によれば、「相対的知財力」や、知財が「排他権」であるという特徴を最大限に利用し、交渉力として知財を駆使することで、経営の自由度は格段に広がります。経営のための知財、技術開発のための知財、事業のための知財、そのためにも発明活動を積極的に行い、技術と知財を「創造」しなければ、ならなかったのです。


しかし当時は「とにかく売れる技術を、自分達で開発する」という、短絡的な目標の実現に「躍起」になっていました。


結局、「設計論」(注3)と同じなのです。

「経営意思がないと、知財は無力」
「しかし、知財のことを知らなければ、経営の自由度について気付くことすら無い」

部分は全体を支配し、全体は部分を支配する。


細部を知り尽くして、全体を指揮する。これが重要なのです。


「知財戦略を知らずして、発明は出来ない」
「発明が出来なければ、知財戦略の要諦はわからない」


今回の討議で、発明塾が「発明研究所」として、今後大きく飛躍する素地が整ったと思っています。「技術を創造し、活かす」には、「知財戦略」が必須なのです。そして「知財戦略に従って、必要な技術を創造する」ことが、「発明研究所」のミッションです。



今後、発明塾の卒業生は、積極的に以下のスキルの獲得/職務に就く、ことを求められます。それは、将来の「発明研究所」に備えるためです。来るべき日に備え、覚悟を持って、日々精進して下さい。


・ライセンス/渉外

・出願/権利化
・知財戦略の立案、それに基づく発明が出来る技術者(企業人・アカデミア問わず)
・企業家/経営者
・ファンドマネージャ/金融工学の専門家
・情報分析



※ 注1) 以下参照。


・塾長の部屋(51)~「IBMの知財戦略/戦える頭脳集団へ」
http://edison-univ.blogspot.jp/2013/09/ibm.html


※ 注2) 正確には「契約」に関することです。もちろん「知財に関する契約」です。



※ 注3) 以下参照。

発明塾京都第144回開催報告~再び「設計」論
http://edison-univ.blogspot.jp/2013/08/144.html



2013年9月25日水曜日

「戦える頭脳集団へ/IBMの知財戦略」~塾長の部屋(51)

昨日、定例の社内の勉強会を行いました(注1)。弊社では、外部の識者を招くことも含め、よく勉強会やブレストを行います。

昨日も、AM2時間半と昼食を合わせて、計4時間の討議を行いました。



今回の勉強会のテーマは、僕個人的には「IBMの知財戦略の尻尾をつかむ」ことでした。活発な議論を通じて、所期の目的は、ほぼ達成されたと思います。


IBMは、メインフレーム⇒PC⇒クラウド/サービス、と「時代の変遷」に耐えながら、その知財戦略/知財マネジメントの手法を進化させてきました。おそらく、米国のIT系企業や、一部の欧州/日系企業も、IBMとの交渉(注2)/IBM人材の受け入れ(注3)を通じて、その手法を吸収し、実践していると思われます。


紙幅の関連で詳細は割愛しますが、IBMの知財マネジメントの特徴は、その独自のライセンス手法にあると言えます(注4)。



ある関係者曰く「IBMの知財マネジメントは刀狩り」とのことで、強者が確実にさらに強くなるために、考えぬかれた手法だと、感じます。IBMは、かつて独禁法関連で苦しめられたこともあり、巧妙に「独禁法違反」を回避した戦略にも、なっています(注5)。



そのIBMから多くを学んだ2社

IBMの知財戦略と、「国際標準化と事業戦略」で有名な 小川 先生(注6)の、「知財マネジメントの公理」(注7)を組み合わせると、中国/韓国を始めとしたキャッチアップの戦略が、いずれ「強者がますます強者になる」IBM式戦略に移り変わってくることが、透けて見えます。



さらに「深読み」して、フェルプスがIBM/マイクロソフトで実践したような、「強者が強者になるための知財マネジメント」のために、中国/韓国が「国家知財ファンド」を創設し、権利活用を行ってくるとするならば・・・。


日本の「国家知財ファンド」(注8)の知財マネジメントも、根本的に変わってくるのではないでしょうか?


例えば、ライセンス先は「国内ベンチャー」「国内中小企業」ではなく、「新興国企業(大手含む)」になるでしょう。契約も、ライセンス収入「だけ」を目当てにするのではなく、かなり巧妙にする必要があります。ポートフォリオの組み方も、非常に重要です。


企業から「買い取った」知財を、国がどこまで「国策として」「交渉力として」積極活用できるか、非常に興味深いケースです。


「勝つための打ち手」は、国内外の識者(注9)の活動により、ほぼ明らかにされています。「アジアの成功を取り込む」(注10)ためにも、「戦える頭脳集団」(IBM式)への変化が、求められていると思います。



「発明塾」もTechnoProducer株式会社も、「頭脳で戦える」人材の育成を目指し、設立した組織です。今後も我々は、様々な機会を通じて「勝てる戦略」「戦える組織」の科学を追求し、その実施/実現を推進します。




※ 注1) 弊社では、定期的に「知財」「発明」「教育」等、弊社の事業分野に関して、社内のみの勉強会とブレストを行っています。月1程度でしょうか。それ以外にも、クライアントや外部の識者を交えた勉強会も、各方面で開催しています。例えば、以下参照。


・「塾長の部屋(14)~社内の勉強会から」

http://edison-univ.blogspot.jp/2012/09/blog-post_25.html

・「塾長の部屋(42)~「ものづくり」を学びたい人に」

http://edison-univ.blogspot.jp/2013/05/blog-post_26.html

・「月例ブレスト~「国際標準化と事業戦略」を発明に応用する」

http://edison-univ.blogspot.jp/2013/04/blog-post.html


※ 注2) 例えば以下参照。


・「雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟」伊集院 丈 著

・「雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉」伊集院 丈 著


※ 注3) 例えば、「マイクロソフトを変革した知財戦略」の著者 Marshall Phelps は、元IBMの特許部門責任者である。その経緯は、例えば以下に詳しい。


・「マイクロソフトの知財戦略」

http://commutative.world.coocan.jp/blog2/2010/09/post-800.html

彼が「どう」マイクロソフトを改革したのか、関連範囲を引用しておく。


「マーシャル・フェルプスの託された主要なミッションは、独占の権化のようなマイクロソフトを、オープン・イノベーションのトラックに乗せることである。そのためには、逆説のようであるが、保有特許件数を増やさなくてはならない。」

「フェルプスがIBMで手がけたライセンス収入を作り出すスキームは、利潤の枯渇に苦しむIBMにとって死活問題」
「増大してきた特許ポートフォリオを背景に、マーシャル・フェルプスが進めたことは、クロスライセンスであった。知的財産を使ってコラボレーションを生み出すということの典型的な施策」
「特許訴訟という意味では、マイクロソフトは、いわゆるディープ・ポケットであって、攻められっぱなしであった。反訴しようにも、使える特許をあまり保有していなかった。そこで、特許ポートフォリオを充実させて、その抑止力で訴訟を減らし、クロスライセンスを増やしていくというのが明確な方針」

そしてこのライセンス戦略の成功により、ますます「先鋭的な発明」を権利化し活用するという、好循環を生み出し、「交渉力」を確実なものにしている。


他、彼自身の講演も参照。
http://opencanada.org/features/keynote-speech-by-marshall-phelps/ 


※ 注4) 詳細は、2013年6月27日(木)開催の、以下講演内容を参照。

 「進化する米国知財ビジネスの実態 ~パテント・アグリゲータ - その実態と日本の対応~」
 講 師 : ヘンリー 幸田(Henry Kouda)氏 米国弁護士 
 主催者 : 知的財産研究所

※ 注5) クアルコムも同様である。


※ 注6) 「国際標準化と事業戦略」小川 著



※ 注7) 以下講演の配布資料参照。


・「イノベーションと標準・知財戦略 ~2020年への再生シナリオ、製造業復活のために~」

http://enterprisezine.jp/article/detail/4352

以下に、関連部分を抜粋転記します。


★「知財マネジメントの公理」

1)フロントランナー型
・公理1:その知財に価値があり、これを回避・迂回する知財が存在しない時その企業は競争優位を獲得できる。
・公理2:市場と企業の境界を事業領域として定め、その製品のコア領域でクロスライセンスを排除できて、コア以外の領域で他者の知財を回避、迂回できるなら、その企業は競争優位を獲得できる。
・公理3:その知財が自社のコア領域と市場の境界を介して市場に影響力を持たせることが出来れば、その企業はさらに強力な競争優位を築くことができる。

2)キャッチアップ型

・公理1:その製品が国際標準化されていて、知財ライセンスを受けられそしてその企業のトータルビジネスコストが先行する競合企業よりもはるかに低いのならその企業はグローバル市場で競争優位を獲得することができる。
・公理2:例え最先端技術を持たなくても、先行する企業にとって必須となる知財を、トータルなビジネス構造の中でわずか一つでも持ち、そしてその企業のトータルビジネスコストが先行する競合企業よりはるかに低いのなら、その企業は競争優位を獲得することができる。
・公理3:トータルビジネスコストがもたらす利益によって、その商品を進化させる技術開発に成功し、これをフロントランナー型の公理で守れば、キャッチアップ型だった企業がグルーバル市場のリーダーとなる。


※ 注8) 例えば「産業革新機構」や関連ファンド


※ 注9) 小川 先生、丸島 先生、ヘンリー幸田 先生、等


※ 注10) 以下、小川 先生の講演資料を参照

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kyousouryoku/dai3/siryou3.pdf


2013年9月22日日曜日

発明塾京都第147回開催報告~「常に100%を目指せ」

今回も、各自のアイデアを討議しました。夏休み課題の締め切りが近づいていますので、いわゆる「詰め」の段階の討議を、数多く行いました。

僕は「発明は詰め将棋と同じ」だと思っています。先行技術を起点にして、どこまで「深堀り」できるかが、ポイントです。


繰り返しですが、初期の「自分の着想(アイデア)」にこだわる人がいますが、全くオススメできません。常にアイデアを、先行技術をベースに見直し、飛躍させる事が重要です。飛躍の手法は、塾で日々教えているわけですから、「自分が何が出来て、何ができていないのか」しっかり確認し、弱点を克服することです(注1)


また、僕の定義では「発明提案書には、技術内容だけでなく、ビジネスモデルと、それを担保する知財戦略を記入する」ことになっていますので、その点も忘れずに。


「ちょっとオモロイこと言うぐらいのことは、中学生でもできる」(注2)


という、Sくんの名言を忘れずに(中学生の皆さん、失礼)。



今回講義で話したのは、「常に100%を目指す」ということです。一言で言うと「Mastery(熟達)」ということです。


世の中には、


「60点主義」「8割主義」


を説く人も多く(注3)、勘違いしている学生も多いので、敢えてこれを口癖にするようにしています。



僕の考えでは、試験で100点以外は、0点と同じです。何らか不完全な点があるからです。僕の仕事であった「設計」で言うと、一箇所でもミスがあれば「作り直し」になるからです。


「1箇所ぐらい寸法が間違っていてもいい」


とは、残念ながらなりません。設計には「完璧」が求められます。川崎重工の社内規格で、一番大きな図面寸法は、縦はA0サイズ、幅無限の「A0L(エーゼロエル)」です。エンジンの部品では、クランクケース、シリンダーヘッドなどが、この図面規格に相当する部品です。運が良ければ、幅は、数メートルに及びます。


特に、クランクケースやシリンダーヘッドは、エンジンの重要な部品を中に収める「要(かなめ)」の部品であり、その図面内だけでなく、関連する数十の部品の図面と照らしあわせて、ときに数百に及ぶ寸法をはじめとした、ありとあらゆる記載内容を、一言一句、何度も何度も、根気よくチェックすることを、設計者は常に迫られます。もちろん、設計の過程でも、繰り返しチェックしているのですが、やはり、出す図面が全てなので、この「出図チェック」に、膨大な時間を割きます。


1枚の図面をチェックし続けて、それで一日が終わってしまうことも度々ですし、途中で止めるとわけわからなくなるので、終わるまで帰れない、ということになります。途中で電話で呼び出されたりすると、腹が立ちます(注4)。



設計者がこれだけチェックしたものを、上司が同じようにチェックすることは、不可能です。つまり、「担当者のチェックが全て」なのです。上司は「大丈夫なんやろな」と聞くだけです。担当者は「大丈夫です」というしかありません。もちろん、証拠は示すのですが(委細割愛)。


なにか起これば、担当者が走り回って全て火消し、再手配、改修などを行います。その経験が、「出図チェック」を、ますます完璧なものにします。


運良く(悪く?)入社2年目で、新機種エンジン開発の「実質上の総まとめ」を担当することになった当初、自分の図面で手一杯な上に、部下?(年齢的には全員年上で、キャリアも上の方ばかりです)の図面もチェックしていた頃の毎日は、本当に忘れられません。「毎日、確実に成長」していた、貴重な日々でした。


実は僕も「そのままでは絶対に使えない」=「作り直しを余儀なくされる」図面ミスを、1度だけやった事があります。そのこともまた、忘れられません。開発中の部品ということもあり、最終的には、自力で全て手直しして、開発を継続できました。設計者には、溶接や機械加工などの実技も不可欠になります。自分のミスは、自分でリカバーせざるをえないことも、度々だからです(注5)。



僕が、就職にあたり全ての教え子にいうことは、ただ一つ。


「完璧が要求される、厳しい仕事に就け」


テキトーで済まされるヌルい仕事で、変な癖がつくと、それこそ「使えない奴」になってしまう。



100点をとる能力は、それを追求し続けないと身に付かない。100点のレベルは、世の中の進歩で毎年向上するわけだから、「現状維持」的な発想では、結局後退してしまう。


仕事柄、多くの人を見るわけですが「完成度が上がらない」タイプの人は、仕事を任せる方も(気分的に)キビしいが、受ける方もキビしいだろう。だけど「仕事」なので、やってもらわないと困る。完成度が低いものを「出来ました」と出されても困る。だれかが、後始末しないといけない。自分で仕事が完結出来ないと、「プロ」とは呼べないし、厳しい言い方をすると、それは「仕事」ではない。


僕が川崎重工で、オートバイの設計を通じて学んだことは、そういうことです。「たった」一つの図面寸法の間違いが、その後のすべての人の仕事を台無しにする。そういう環境での経験があったからこそ、今の僕があると思います。


例えば Completed Staff Work(注6) という言葉がある。Wikipediaによれば、米軍の言葉らしい。仕事というのは、こういうものである、と僕は思っている。



若いうちに、どれだけ「Mastery」の方法論を持てるか。


それに尽きます。




※ 注1) これは重要なポイントなので、「塾長の部屋」で、後日取り上げます。



※ 注2) 以下参照。


・「発明塾京都第130回開催報告」

http://edison-univ.blogspot.jp/2013/05/130.html


※ 注3) 個人的には、佐藤優氏の読書論に関する本を読めば、一蹴できる主張だと思います。



※ 注4) そのため、僕が入社した時には「Max2」という制度があり、午前2時間、午後2時間「会議も電話も無し」という時間が、設けられていた。正しいと思う。



※ 注5) 僕はこの点恵まれていて、かつて「試作工場」のベテランの職人に、「お前が上手すぎると仕事がやりにくいから、もっと手を抜け」と、皮肉な褒め言葉を貰いました。



※ 注6) 以下参照。また、少し長いですが、必要部分を引用しておきます。


・「ある言葉」 http://manamix.exblog.jp/5809042


以下引用。

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Completed Staff Workとは、スタッフによって行われる「問題のスタディ」であり、また、「解決策の提示」です。この場合上長の責任で行われる決定が、即、完全なアクションとなることが要求されます。一般に、問題が困難であればあるほど断片的にあるいは不完全な形で上長に提示する傾向があるために「完全なアクション」という言葉が強調される必要があります。

細部のスタディをするのはスタッフとしての義務です。いかに問題がわかりにくくても、スタッフは結論に至る過程の細かい問題の解決を上長に依存すべきではありません。その問題に関して結論を導き出すまでのすべての障害は、スタッフ自身によってとりのぞかれなければなりません。 


経験の浅いスタッフにしばしば見られることですが、何をすべきかを上長にたずねたい衝動は、問題が難しいときほど頻繁に起こるものです。何をすべきかを上長に尋ねることはいとも簡単なので、上長が答えることも非常に簡単のように見えます。しかし、その衝動に抵抗しなければなりません。その衝動に負けるのは、スタッフが自分の仕事をよく知らないからです。


上長が何をすべきかをアドバイスすることがスタッフの仕事なのであって、スタッフがすべきことを上長にたずねることが仕事ではないのです。上長は解答を必要としているのであって、決して質問を欲しているのではありません。スタッフの仕事とは、一つの結論、それもあらゆる角度から熟慮されたものの中から最良のものを引き出すまで、スタディし、チェックし、スタディし直し、チェックし直すことなのです。上長は、単に是非を決するだけでよいはずです。


 冗長な説明文やメモで上長を煩わしてはいけません。上長に対してメモを書くことはCompleted Staff Workではありません。しかし上長が第三者宛に送付できるようなメモを書くことはCompleted Staff Workといえるでしょう。上長が、単に署名するだけでスタッフの見解を自己の見解と出来るように、スタッフの見解は完成された姿で上長に提出されるべきなのです。


多くの場合Completed Staff Workは上長の署名のために用意された一様の文章に帰着します。適正な結論に達していれば、上長は直ちにそれを認めるでしょうし、もし彼がコメントか説明を望むときは、その旨を要求するでしょう。 


Completed Staff Workという考え方は、スタッフにとってより多くの仕事をもたらすかもしれませんが、上長にとってはより多くの自由が与えられます。これこそ、本来のあるべき姿なのです。さらにこの考え方はふたつの利点をもたらします。


1、上長は生煮えの計画や、大量のメモや、結論に達していない口頭での報告にわずらわされなくてすみます。
2、本当に役立つアイデアを持っているスタッフは、自分が活躍する場をますますみつけられるようになります。 

あなた自身が、Completed Staff Workを完了したかどうかのチェック方法は次の通りです。


1、もしあなたが上長だとしたら、あなたが準備した書類に喜んで署名しますか。また、あなたの「プロフェッショナル」としての名誉にかけて、それが正しいということを保障できますか。
2、万一答が否定的であれば、その仕事を撤回してもう一度やり直すべきです。 なぜなら、その仕事はまだ「Completed Staff Work」ではないのですから。


2013年9月15日日曜日

塾長の部屋(50)~「マクロ経済学を学ぶ」

以前から、

「これからの理系学生に必要なのは、金融工学/心理学/知財」


と言ってきました。僕は個別の株式投資はやらない(注1)のですが、経済動向を知るために「日経ヴェリタス」を購読しており、たまに塾でもその記事を紹介します。


偶然なのですが、ちょうど先週のヴェリタスに、「クアルコムとメディアテックの”レファレンスデザイン”戦略」(注2)が、取り上げられていました。



詳しくは、読んでいただくしかありませんが、


・スマホのチップメーカーが「スマホに必要な設計図と”部品のリスト”」を供給していること

・そのリストに偶然乗った部品は「大量に注文が来るようになった」こと

などが、インタビューも交えて書かれています。ヴェリタスは個人投資家向けの新聞?ですので、当然のことながら、


「どのメーカーの部品がリストに乗っているのか」


についても、掲載されており、投資家が「株を買う」ヒントになるようになっています。


「クアルコム/メディアテックの部品リストに乗る」と「株価が上がる」


みたいな時代なんですね。



ちなみに、隣のページにはTDK社長のコメントとして、


「チップメーカー(要するにクアルコム/メディアテック)に、毎日営業に行けと檄を飛ばしている」


と書かれています。


「携帯電話用電子部品を売りたければ、チップメーカーに取り上げてもらう必要がある」


ということでしょうか。「Enabler」モデルで無線通信の世界を牛耳るクアルコムと、ローエンドから猛追するメディアテックの「レファレンスデザイン」戦争。「知財/標準化戦略」が「業界企業の株価すら支配する」という、生きた教材になっています。



僕はいつも、


「勉強するなら、専門書を読みこなすと同時に、現実の世界で起きていることを、その知識ですぐに分析してみる」


勉強法を、勧めています。発明をしながら発明法を学んでもらう、という「発明塾式」も、ここから来ています。本を読んだり、人の話を聞いて満足していては、結局身に付かないからです(注3)。



例えば、マクロ経済学の本(注4)を読むとします。たぶん、何もわかりません。併せて「日経新聞」の月曜版にある「マクロ経済指標」を、分析して「今の世界の経済動向はどうなっているのか、今後どうなると予測できるか」自分なりに「仮説立案」することを、おすすめします。


何ヶ月か経てば結果が出ますから、自分の分析力が試されるわけです。結果が速く出るので、分析力を鍛えるには最適です。



偶然ですが、今週のヴェリタスには、金融工学といえばこの人「ジョン・メリウェザー」について、マネックス証券の松本氏が、コラムで取り上げています。


御存知の通り、メリウェザーはソロモン・ブラザーズで債権トレーダとして活躍し、副会長にまで上り詰めた後、ノーベル賞学者2名(注5)を擁するLTCMを設立します。


LTCMについては、「最強ヘッジファンドLTCMの興亡」という本に、経緯が詳しく書かれていますので、読んでみると良いでしょう。


その他、金融工学(注6)の失敗の歴史については、例えば


「デリバティブの落とし穴-破局に学ぶリスクマネジメント」可児


などに、いくつかの典型例が書かれています。



以前、「知財の利回り」執筆中の岸先生から、


「楠浦さんは、知財取引が、ブラック・ショールズの確立微分方程式のような、数学の世界に行き着くと思いますか?」


という問いかけが有りました。その時も「Yes」で返答しましたが、現時点でも、それは変わっていません。優秀な理工系の人材が流入する限り(注7)、金融工学は今後も進化し続けるでしょうし、「知的財産権」は、その名の通り「取引可能な財産の権利書」なのですから、財産として「健全に」取引されると思います。


「会社」が(株式という形で)市場で広く取引されているのに、その会社の一資産である「知財」が市場で取引できない理由は、無いでしょう。

いつものことですが、残念ながらその扉を開くのは日本ではないでしょうから、欧米の知財権取引の動向(注8)に、今後も注目したいと思います。




※ 注1) 詳しくは以下参照。


・「塾長の部屋(2)~塾長の休日?」

 http://edison-univ.blogspot.jp/2012/08/blog-post_19.html


※ 注2) 「レファレンスデザイン」については、例えば以下。


・アップル苦しめるクアルコム「格安スマホレシピ」

 http://www.nikkei.com/article/DGXZZO54574310R00C13A5000000/

クアルコムについては、立命館大学MOT大学院での講義でも、度々取り上げています。


・立命館大学MOT大学院 第5回講義を終えて~クアルコムが携帯電話業界の覇者になるまで

 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/07/mot.html


※ 注3) 第146回で取り上げた「復活した塾生」が、自分失敗を振り返って、以下のように語ってくれています。他の塾生も、耳が痛いはずです。長いですが、需要なことなので、引用しておきます。


・一つ一つの学びを整理、消化できてない

 発明塾に初めて来た僕は、これまで触れたことがないような議論に関われるのが楽しく、それだけで満足してしまいました。また、長時間の議論のあと振り返りを作る元気がなく、毎週毎週、ひとつひとつの話題をちゃんと吸収することができていませんでした。ノート、MMなんでもいいので、その日の内容を書き出して、何をやったか、どう考えたか、どれを吸収すべきかを(なるべくあとから見てもわかるように)明確にするのはやはり重要だと思います。

・結果が出せない
 ひとつひとつの学びを消化出来ていないので、当然求められる結果も出せません。ただ、結果が出せない理由はそれだけではなく、とりあえず何かしら考えたことを出してみる勇気が足りない(プライドが高い)、とりあえず忙しいから……と結果を出すのをなんとなく先延ばしにしてしまう(強制的に結果を出す仕組みがない)、というのも理由としてあります。

・発明塾京都第146回開催報告~「他を活かす」

 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/09/146.html


※ 注4) 参考書は別のところにも挙げていますが、念のため。僕は基本的に、自分で読んで良かった本のみを推奨するので、若干古い点はご容赦下さい。この辺を参考に、もっと新しい、いい本を是非各自で探して下さい(で、紹介して下さい)。


・スティグリッツ、例えば「経済学入門」「マクロ経済学」等

・ガルブレイズ、例えば「経済学の歴史」(彼は経済史が専門)
・「ゼミナール経済学入門」福岡(日経新聞)。非常に丁寧な数式の展開で、経済学を理詰めで理解できるので、数学が好き/得意な人には、特にお勧め。
・日本の著名な経済学者の代表的な本/総説など。例えば、
 「経済学とはなんだろうか」佐和
 「自動車の社会的費用」「経済学の考え方」宇沢
 「現代経済学の巨人たち」「経済学 名著と現代」「経済学の巨匠-26人の華麗なる学説入門」

他、サミュエルソンの教科書等、挙げればきりがないですが、経済学を専攻するのでなければ、上記で十分だと思います。


※ 注5) マイロン・ショールズ(ブラック・ショールズ方程式)、ロバート・マートン


※ 注6) 参考書として例えば「ビジネスマン必修 金融工学講座」


※ 注7) 金融工学が、NASA出身の物理学者/数学者やロケット工学の専門家によって生み出されたのは有名な話ですが、記憶に新しいところでは、以前「カオス/フラクタル」のところで取り上げた「ベノワ・マンデルブロ」が、株価の分析に、「フラクタル理論」を適用し研究している。


・発明塾京都第143回開催報告~「偶然に必然を見出す」J.モノーに学ぶ

 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/08/143j.html


※ 注8) IPXIのメンバーが日本に営業?に来た際に、面談のお声掛けを頂いたのですが、日程が合わず、残念ながらお会いすることが出来ませんでした。その後、Webミーティングなどには参加して、常に動向をウォッチしています。



2013年9月13日金曜日

発明塾京都第146回開催報告~「他を活かす」

今回も、各自のアイデアを討議し、併せて、「発明塾式」発想法の重要な部分を占める、「知財戦略/標準化戦略」の考え方について、復習しました。

繰り返しですが、「知財」の知識無しに発明をすることは、「単なるアイデアの垂れ流し」以外の何物でもありません。保護されない発明を創出(?)することは、無意味というよりは時間の無駄で、「有害」です。


また、今回から一名、一度挫折した塾生さんが復活してくれました。本人が「なぜ挫折したか」を判っていることが重要ですし、それがわかっていれば、少なくとも同じ事態を避けられる可能性は、高いと思っています。

発明塾を通じて僕自身も学び、また、塾生に学んで欲しいことの一つに「他を活かす」こと、があります。

「他を活かすことが、自分が生きる道である」

ということです。これは、僕が取り組んでいる「教育」という職業もそうですし、「経営」もそうですが、おそらく、あらゆる活動についてまわることだと思っています。

「他人の活躍と幸せを、自分の幸せに出来るかどうか」

これが、僕が塾生に求めていることです。自分が発明が出来るようになるためには、討議してくれるメンバーが必要だからです。そのためには、「相手も、自分と共に発明が出来るようになる」必要があり、むしろ「相手の発明を手伝う」ことから、学ぶ必要があるのです。

「自分に出来る事は何か」
「相手が出来ている事は何か、足りない部分はなにか」
「それを、自分はどう補完することが出来るのか、出来ないのか」
「出来ないなら、あと、誰に手伝ってもらえれば良いのか」

発明塾では、このようにして発明討議を進めていくことを、指導しています。これは、ちょっとビジネス書をかじったぐらいの学生や、チャラくて薄っぺらい社会人がよく言う、

「あなた/あなたの会社にしか出来ない事は何か」
「あなた/あなたの会社の独自性は何ですか」

という議論とは、似て非なる。むしろ、対局にあると言っても良い。


前者は、

「総ての存在は、存在固有的に不完全であり、それを組み合わせ/補い合うことが、重要である」
「自分の欠点を、補う存在が重要である」

という姿勢であるが、後者は、

「自分は完璧である。あなたには何が出来るのか。あなたにしか出来ないことが無いなら、価値を認めない」

という、姿勢である。


僕が、「経営」という仕事が面白いと思う理由は、発明と同じで、「組み合わせの妙」があるからだ。「他を活かす」ための工夫。自分を活かす相手は誰か、その相手を活かすにはどうするか、この組み合わせを強化出来る次の人材は、一体どこにいるのか。

それが経営である。


そして、

「未だ見つけられていない組み合わせで、技術に新たな価値を見出す」

のが、発明である。


それは、薄っぺらい「ビジネス書的勉強」/「ビジネスプランコンテスト合宿的」付け焼き刃、では得られない。

中途半端な活動は、むしろ害にしかならない。やるなら、徹底的にやること。

復活した塾生の「勇気と覚悟」に、エールを送りたい。でも、もう後はない。


がんばれ!


2013年9月8日日曜日

「計画的に勉強する”仕掛け”をつくる」~塾長の部屋(49)

大学生は、夏休みも後半になっていますので、勉強法について復習しておきましょうか。

「夏休みに勉強します」

と宣言していた学生も、結構多かったですからね(笑


さて、以前もどこかで書いた気がしますが、僕の勉強法を、整理しておきましょう。

①目標を定める/できれば身近な人をベンチマークにする
②3ヶ月を単位とする/本なら3冊が目安
③すぐにアウトプットする

この辺りでしょうか。一つづつ行きましょう。これは、大学生はもちろん、社会人になって時間が限られてくると、特に威力を発揮します。


①目標を定める/できれば身近な人をベンチマークにする
目標については、度々言っていますが「まずは決める」事が重要です(注1)。例えば僕が、社会人になって最初に決めた目標は、

「30歳までに、機械設計者として、独り立ち出来るレベルになること」

でした。今から考えると、測定基準が曖昧で、いい目標設定とは言えない気がしますが、身近な先輩をベンチマークにして、「あの人ぐらいかな」というものは持っていました。

結果的には、入社2年で、新機種エンジン開発の「実質上の」取りまとめ(係長相当)を担当することになり、その仕事を通じて、3年目ぐらいで、目標は達成されました。ラッキーでしたね。

具体的に日々どのように、「勉強」?に落としこんでいたかは、次で説明します。


また、コマツ時代には、当時の上司に

「目標とする設計者を決めて」
「その人のスキルを因数分解し」
「それぞれに対して、今何%で、毎月何%に向上させていくのか」

を、表にしろと言われました。当時のものではないですが、こんな感じです。




毎月、その表を元に「面談」して頂き、仕事内容の調整などをしていただいたこと、今でも非常に感謝しています。なんだかんだ言って、

「良い上司に恵まれたこと」(注2)

が、僕が継続的にスキルを向上させることが出来た、大きな理由のようにも思います。


②3ヶ月を単位とする/本なら3冊が目安
これは大学時代からやっていたことですが、具体的な目標を決めると、

「それを、必要な要素に因数分解し」
「3ヶ月を単位として」
「それぞれ、最低3冊、読む本を決める」

ことにしています。そして本は「決めた時に、まとめ買いする」(注3)ことにしています。

この方法は、その後も僕の部下になった人には、常に指導していますが、自分で自分の勉強が計画できる人が、意外と少ない気がしますね。逆に言うと、「計画ができれば勝てる」というところでしょうか?

皆さんも是非、試してみて下さい。


③すぐにアウトプットする
ここが一番重要かもしれません。すぐに必要にならないものは、結局身に付かない気がします。というか、身についたかどうか判断できない、と言うべきかもしれませんが・・・。

この辺りをクリヤーするために、僕が、タマに裏技として使うのは、

「資格試験を受ける」

です。因数分解で困るときにも、これを使います。目的は「資格をとる」ことではなく、「資格が取れるぐらい、理解を深め、アウトプットを出せるようにする」ことに置きます。

実際、30前後で「経営について勉強しておきたいよね」となった時に、もう少しコストの高い、

「学校(海外のビジネススクール)に行く」

という選択肢も検討しましたが、「手頃な資格(中小企業診断士)」を見つけたので、テキストを買って一通り勉強し、受験することにしました。試験自体は手頃な難易度のものでしたし、あの程度のコストで、マクロ経済学や財務会計など、視野を広げることが出来たのは助かりました。さすがに、「何のアウトプットの機会も設定せず、自習する」というのは、僕の自己管理能力では、無理だったと思います。

どちらかと言うと、

「アウトプットせざるを得ない場を設定して、それに向かって計画を立てる」

が正しいかもしれませんね。

「出来るようになったら、やります」

は、沈没する人の典型的な口癖ですよね。


以前も「大学時代に身につけておくべきことは勉強法」(注4)と説明した通り、しっかりした勉強法を身につけていれば、社会に出ても、新たな知識やスキルを、ブレること無く継続的に身につけることが出来ます。

残り少ない夏休み。

成果が出ていない人は、やり方を見なおしてみては?



※ 注1) 以下参照
・発明塾京都第145回開催報告~「なんでもよいから目標を立てよ」
 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/09/145.html

※ 注2) カワサキ時代の上司は、一般的には「どうかな???」と思う上司ではありましたが、結果的には、その方が上司として「???」だったからこそ、「大きなチャンス」が巡ってきました。結局のところ、困難な状況というのは誰にとっても困難なので、その中で「頭一つ抜け」れば・・・。

※ 注3) 資料は常に手元にないと、効率が悪いんですよね、結局。例外的に、会社にある非常に高価な資料集などは、会社の図書館に夜中まで篭って、読んだりしていました。

※ 注4) 以下参照
・立命館大学「発明講義」最終回を迎えるにあたり~何を学ぶべきだったのか
 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/01/blog-post_11.html


2013年9月6日金曜日

発明塾京都第145回開催報告~「なんでもよいから目標を立てよ」

今回も、各自のアイデアを討議しました。これまた繰り返しなのですが、発明において、最も重要なことの一つは「自分のアイデアに、こだわらない」ことだと思います。

パッと思いついたことに、いつまでもこだわって、こねくり回す人がいます。殆どの場合、そのアイデアもモノにならないし、発明法も身に付かない。残念ですね。

僕は、「発明は詰将棋だ」と思っています。

与えられた状況(初期の着想)から、「最終目的(詰め)」に向かって、論を進めていくわけです。

だから、スタート地点のアイデアは、極論すると誰のどんなアイデアでも良いわけです。既存の先行技術でも、全然構わない。はっきり言って、2-3時間のブレストで出る程度のアイデアは、調べれば近い先行技術が出てきますから、後生大事にしても仕方がない(注1)。

重要なのは、「それを起点に、どこまで練るか、詰めるか」なのです。

もう一度言います。

「重要なのは、”どこから” ではなく、”どこまで”」

そのために、一連の「発明塾式」の発明プロセスを組んでいるわけなので、基礎を疎かにせず、また「今やっていることは、何のためなのか」「次どうするのか」常に考え、進めるようにして下さい。


僕が大学生と社会人の最も大きな違いと考えるのは、この「目的意識と具体的目標」です。大学生の大半は、「目的・目標を定めず」「スタート地点付近の、”ちょっと面白い”?ことにこだわって」勉強し、4年間(もしくはそれ以上)を過ごしますが、社会人ではありえないことです。

実際の所、「目標はなんでも良いから、とにかく立てることが重要だ」と、僕は考えます。スタート地点で、無駄に、そして興味本位でウロウロしないためです。

例えば、僕の知人で「30歳までに一軒家を建てる(ぐらいのお金をためる)」という目標設定をしていた人が、いました。彼はその具体的な目標に向かって、友達付き合いなどをコントロールし、見事にその目標を達成していました。

彼にとっては、仕事も、そのための一手段だったのではないかと、思います。一軒家が立てられるお金(具体的目標)が貯まるように(目的)、働こう(手段)、と。

目標は、なんでも良いと思います。

「違うな」と思ったら、変えればいいので(注2)。

・XX装置を開発したい
・一軒家を建てたい
・資格を取りたい
係長になりたい

測定可能なものであれば、何だって良い。

「正しい目標」「達成可能な目標」を立てようとか、評価基準を入れると、殆どの人が「目標すら立てられなく」なってしまう。極論すると、「正しい」とか「達成可能」は結果論なので、

「とにかく目標を決めて進める」(主観)
「定期的に見直す」(客観)

と、ネガポジの制約条件を分けることです。一般的に、大学生はこれが極端に不得手です。以前取り上げた「設計論」にある「フィードバックプロセス」(注3)が、できないのです。「主観と客観の切り替え」が甘い、もしくは「客観が無い」のが、主な理由だと思いますが。

「とにかく山に登ることが重要」で
「違うと思えば降りればいい」

のです。登らないとわからないこと、がありますから。


最後に、前回(注4)の続きの情報を、塾生さんが共有してくれましたので、卒業生にも共有しておきます。

・「零戦 その誕生と栄光の記録」堀越 二郎 著

からの「写経」です。

「技術者の仕事というものは、芸術家の自由奔放な空想とはちがって、いつもきびしい現実的な条件や要請がつきまとう。しかし、その枠の中で水準の高い仕事をなしとげるためには、徹底した合理精神とともに、既成の考え方を打ち破ってゆくだけの自由な発想が必要なことも、また事実である。
与えられた条件がどうにも動かせないものであるとき、その条件の中であたりまえに考えられることだけを考えていたのでは、できあがるものはみなどんぐりの背比べにすぎないであろう。私が零戦をはじめとする飛行機の設計を通じて肝に銘じたことも、与えられた条件の中で、当然考えられるぎりぎりの成果を、どうやったら一歩抜くことができるかということを、つねに考えなければならないということだった。」p.225

「人間は負けるべく宿命づけられている。
だが、負ける瞬間までは、
勝負を投げずに戦うべきだ」
ヘミングウェイ


設計において、要求仕様は「ネガポジ」両方ありますが、それらを「パズル」のように組み合わせて一つの「モノ」に仕上げていく、そんな仕事が、設計です。


はっきり言って、めちゃくちゃ面白い仕事です。


※ 注1) 僕は、ブレストが面倒なときは、先行技術調査で代替します。そういう意味でも、発明には「検索」「分析」能力が重要、だと思っています。「自分の頭」に頼っていては、限界がありますから。まぁ、調べればいい発明が出る、というほど甘い世界でもありませんが・・・(必要十分条件の話)。


※ 注2) そのためにも、常に目標・目的を意識し、それを見なおす時間を取ることが重要です。詳しくは「7つの習慣」で。


※ 注3) 「設計」に関する記載は以下。

・発明塾京都第144回開催報告~再び「設計」論
 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/08/144.html
・塾長の部屋(40)~「設計」と「発明」が持つ「アート的」面白さ 
 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/04/blog-post_7.html

※ 注4) http://edison-univ.blogspot.jp/2013/08/144.html 参照




2013年9月1日日曜日

「”自分の信じる所”を追求すること」~塾長の部屋(48)

金曜日に、弊社定例の「知的財産セミナー」を、開催いたしました。出席いただきました皆様に、篤く御礼を申し上げます(と言っても、このブログは読まれないと思いますが・・・)。
セミナー関連記事は、以下。

・塾長の部屋(46)~「特許情報分析官」のススメ

http://edison-univ.blogspot.jp/2013/08/blog-post.html


さて、そのセミナーに関連しつつ、いくつかの話題を「タイトル」に従って、まとめておきたいと思います。今日の主題は「自分の信じるところに従え」ということに、なるかもしれません(注1)。しかも、基本的に、自分の信じるところに、説明は不要です。


「その理由を説明していては一日が終わってしまう」 (注2)


からです。説明したからといって、何が変わるわけでもありません。丁度セミナー後の打ち上げで、メンバーの一人が、


「色々情報を発信すると、批判されることも多い」


というようなことを、話していました。僕がそこで話したことが、上記/下記です。


「自分の信じるところに従えば、問題ないんじゃないかな」


相手がどうのこうの、ということも関係なく、ただ淡々と「自分の信じる所に従い」「自分の仕事をする」ことだと思います。そうすれば、もっと「強くなれる」と思います(注2)。ただ、僕がこの境地に達したのは「30を少し過ぎてから」ですので、20代の「若い」人には、少し早いかもしれません。


「そういうもんかな」


と思ってもらえれば、良かったかなと思います。



塾生さんに、佐川氏の話をいつも推してくれる人がいます。
よい研究の条件=「目的が大事」


実は僕自身も、この会社を経営していて、また「発明塾」を運営していて、様々な「ご意見」を頂きます。いくつかエピソードを紹介しましょう。弊社も6年目を半ば過ぎ、メンバーも10名を超えて、毎年増え続けている中、まぁ、「時効」であり、「笑い話」の範疇です(笑。



1)「クズ発明」を「売りつけている」発言 事件

似たような事は、何度か体験しているのですが、最も「インパクト」があった事件を紹介しておきましょう。

ある企業の「取締役/CTO 研究開発本部長 研究所長」の方に、御面談いただいた際のこと。あくまでも情報交換ということで、弊社の事業や「発明塾」の取り組みについて紹介した後に、その方の口から出た言葉です。


「つまりあなたは、大学生のクズ発明を、そのファンドに売りつけている、ということですね」


僕がその場で、コーヒーカップを投げなかったのは、「奇跡」に近いでしょう(笑。その後すぐに席を立ちましたので、その方の真意は不明ですが、どんな理由があれ「言っていいことと悪いこと」があるかな、と、改めて感じました(注3)。



2)「注文を握りつぶしていた営業マン」 事件

これも、おそらく似たようなことが日々起こっていると思っていますが、典型的な例で、かつ、僕自身が知ることが出来た例ということで、紹介しておきます。

ある日、その営業マンとあるクライアントを訪問しました。そのクライアントの担当者には、割と興味を持って頂き、その後も度々資料を提供していましたが、そのうち連絡が来なくなりました。営業をしていれば、それはよくあることなので特に気にしていなかったのですが、別の機会に、その「営業マン」と、たまたま「飲み」に行った帰りのこと。


「こんな小さい会社に仕事を頼むのは、信用出来ないし、危険過ぎる。だから、営業に回った先から注文が来ているが、やめておいた方がいいと、言って断ってある。」


つまり彼は、「ことごとく注文を握りつぶしていた」わけです。いったい彼が、何がしたかったのか、いまだによくわかりませんが、「ああ、そういう風に見られているんだな」ということを、改めて感じたという意味では、大いに得るものが有りました。これも、小さな会社を経営している経営者の方は、常に感じていることだと思います。


「敵は意外と身近なところにいるんだな」


ということも、学びました。同じようなことで、「ただ働き」を強要されたことも、有りました。さすがに最近は、あからさまにそういうことはありませんので、「時間が解決してくれる」ということかもしれませんが、単に僕から見えていないだけ、という気もしています。人間の本質は、基本的に変わりませんから。



この2つのエピソードには、共通点があります。それは、


「では、あなたは、何がしたいんですかね」

「そして、そもそも、自分は何がしたいのか」

ということです。1)の事件について言えば、僕は、


「世界の発明者に提示された難問に、大学生が挑む」ことを通じて、「成果を出しながら学ぶ」という場を継続していこうという、挑戦をしているわけです。我々が発明を提案している先は、いずれも非常に厳しいコンペですので、「売りつけ」たからといって、売れるわけでもないと思います。


僕自身の経験として、「専門知識」を「掘り下げて」学ぶだけでは十分ではなく、特に工学系の学生にとって重要なのは、


「それらの専門知識(群)が、どのような問題を解決してくれるのか」


について、実践を通じて考え、学ぶことだと感じています。大学院で「エネルギー科学」を学ぶことで、このことを痛感しました。僕はそれを、


「総合工学的なアプローチ」


と呼んでいます。「専門知識内の課題を解決する」のではなく、「その専門知識を、他の知識と組み合わせて、もっと上位の問題を解決する」ことです。しかしそのためには「軸になる専門知識の習得」「その分野を極めることで、他の分野に通じる」事が必要になります。


実際、一部の発明塾生の中には、


「発明塾に来たことで、専門知識の重要性を痛感」し、「専門の勉強に集中するために、一時的に塾を休みたい」


と言う学生もいます。それはそれで、大いに結構なこと、と思っています。重要な事は「自分が将来直面する問題を解決出来るだけの、十分な能力を、大学時代に養っておく」ことに、如何に集中できるか、なのですから。「だれかにとやかく」言われてやることでもなければ、「流行り」でやることでもないのです。



発明塾に参加してしばらくすると、学生のほとんどが、以下の3つが「大学時代に身につけるべき能力」であることを理解します。


①批判的検証能力、つまり、「クリティカル・シンキング」

②軸になる専門領域の設定と、徹底的な深堀り
③「総合工学」的アプローチ

①はすでに、ゼッタミスタ、Globis 等の参考書を、紹介済みですから良いでしょう。

②は、例えば楠浦の例で言うと、「金属材料の疲労強度」に関する領域がそれにあたりますが、修士で行った研究は、英国材料学会で優秀論文として取りあげていただきました。やるならそれぐらいやりましょうよ、ということです。
③これも、上記で説明済みです。

残念ながら(?)、これから自分たちが直面する問題は、「一つづつ、地道に、自分達で解決する」しか無いのです。


残念ながら(?)、僕はこれからの日本の状況には悲観的です。「目を背けたくなるような」惨状が、15年後30年後に待ち受けているのは、ほぼ確実です。

しかし、マズロー(注4)が言うように、「社会は少しずつしか変化しない(漸進的な革命)」わけなので、その都度、都合と「調子」の良いこと「だけ」を言う人々に惑わされず、しかし、目標を見失わず、少しづつ「問題を解決し、社会を良くする」ことに、僕とともに取り組んでくれる学生が、増えることを祈るしかありません。


結局のところ、僕が「教育」を仕事にしている理由は、それ以上でも、それ以下でも、無いからです。


「Mrクスウラは、Propheting だね」


と言ってくれた、N.Myrvold の評価が、外れていることを祈りながら・・・(注5)。




※ 注1) 「論語」 参照


※ 注2) 「自己信頼」ラルフ・ウォルドー・エマソン 参照

「善良さにも、ある程度の気骨が必要である―そうでなければ、善良さは何も産まない」 
「その理由を説明していては一日が終わってしまう」 
「自分で定めた高い目標と、揺ぎ無き世界観」 
「世間に迎合していては、何も説明できない。自分の道を行くのだ」 
「偉大であることは、誤解されるということなのだ」 
「自分の仕事をするのだ、そうすればもっと強くなれる」 
「たとえ群衆の中にあっても、独りの時と同じ独立心を持ち、にこやかな態度で人と接する」

※ 注3) もちろん、その企業へ入りたいという塾生がいる場合、事実を詳細に話した上で、「できれば止めておくほうが良い」とアドバイスしています。


※ 注4)「完全なる経営」参照


※ 注5)日本の未来については、僕の予測が外れることを願うしかありません。