「発明塾®」へようこそ!: 7月 2018

2018年7月20日金曜日

よい「設計思想」かどうか/「究極の理想状態」を考える~第442回/第443回

この2回で、発明が大きく進みました。

いずれの回でも、発明を考えていくうえで、重要な概念を取り上げました。
可能な範囲で復習しておきます。

発明提案書完成後、改めて振り返り討議の機会を持ちます。



● 「スジがよい」設計思想かどうか

僕が設計者だったから、かもしれませんが、システム、つまり、複数の部材が組み合わさって一つの機能を発揮するタイプの発明(例えば、エンジンとか航空機とか)において、この

「設計思想」

という考え方は、重要だと僕は思っています。

例えば、XXを用いた軽量化により航続距離を延ばす、という思想の航空機は

「ある部分の軽量化により、エンジンや搭載燃料なども軽量化され、ますます軽量になり航続距離も伸びる」

というような、ポジティブなフィードバックを持つシステムになりえます。 (ある部分の軽量化を打ち消すような補強を、どこかで補わないといけなくなれば、残念ながら、そうはなりません)

今回でいうと、設計思想は

「浄水機能を持つ部分を小型化したことにより、死残量(Dead Loss)が少なく、レスポンスがよい浄水供給装置」

になります。

これが筋がよいかどうか。

もう一度議論を振り返り、判断してみてください。

僕の経験上、良いシステムが創れる人は、この

「設計思想」

の段階で、スジのいい思想をスパッと選んできます。川崎重工で、多くの先輩を見て、実感しました。

カワサキのオートバイが、少なくともある時期非常にトンガっていたこと、世界最速の座に君臨していたこと、その後、ヤマハがYZFシリーズで業界を席巻したこと、など、いずれもこの

「設計思想」

によるものだと、僕は考えています。他、僕が実物や図面を見て

「いいなー」

と思ったシステムは、トヨタVizのエンジンなど、挙げるときりがありません。


「あいまいさ」「変動」を抑え込むのではなく、
「リターン」に生かす。
発明塾の考え方そのものだと思います。


● 「究極の理想状態」を考える

発明が公知になってしまわない範囲で、今回の発明が

「どのように詰まったか」

を振り返っておきましょう。別途、振り返りの討議も、必ず持ちます。


僕の中で、今回の発明の本質は

「複数(N個)の穴から」

という構成要素にある、と一旦判断しました。それにより

「装置のどこにおいても、同じ状態が維持される」
(先ほどの「死残量がない」とも関連する、重要なことです)

わけです。


そうすると、

「究極の理想状態」

の一つは、

「N→無限大」

の状態、つまり、穴が無数に空いている状態になります。

ですので僕は

「多孔質を使えば?」

と言ったわけです。


しかし、N個の穴を多孔質に置き換えると

「関連する別の構成要素」

も、変える必要が出てきます。一見

「一旦、詰まった(完成した)発明を、未完成の状態に戻している」

ように見えます。おそらく多くの人が、これができないのだと、僕は考えています。

「一旦、完成したもの」

を崩すのが惜しいのです。この心情に陥った人がやってしまいがちなミスの一つに

「さらに構成要素を付け加え」

たり

「ほかの構成要素に影響がない範囲で、構成要素を変える」

があります。これでは、究極の理想状態へ向かうことは難しくなります。


今回も、密接に関連するもう一つの構成要素を変えようとする中で、全く異なる

「シンプルで、とても美しい発明」

に生まれ変わりました。


僕は

「2円筒間のクエット流れを使えば?」

と言い、それに対する塾生さんの答えで、発明が一気に完成しました。

その間、

「1分か2分」

だったと思います。
(録音確認ください)


良い発明は、だいたいいつもそんな感じで

「一気に」

仕上がります。

その発明を見れば、それ以前の発明が

「工作的で、不完全なもの」

であること、および、その発明が

「理想状態」

に近いものであることは、すぐにわかると思います。


発明を詰める作業において

「どこまで考えればいいですか」

という質問を受けることがありますが、これ以上詰める必要がない発明は

「見ればわかる」

と、僕はいつも思います。ですので、これ以上詰める必要がないよね、と自信が持てない場合

「詰める余地がある発明」
「理想状態ではない発明」

なのだと、考えてもらって構わないと思います。



次回、発明提案書を議論し、時間があれば、振り返りも行いましょう。

一つ一つ、成果を出し、それを振り返りながら、積み上げていきましょう。

そのようにして積み上げたものは、容易には元に戻りません。

それを僕は

「進歩」
「成長」

と呼びます。


次回もよろしく。



楠浦 拝



P.S.
ちょっと作業が追い付いてませんが、過去アイデアも、今後、一部このページで公開してく予定です。




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2018年7月6日金曜日

研究室の思い出/材料(破壊力学)とプログラミング~第440回(投資部第44回)/第441回


今回も、2回分まとめて、で失礼します。

・院試が近いので、大学生組は少しペースダウンです@発明組
・四季報読み込みの成果が出てきたように思います@投資部

例によって、あまり細かいことがかけないので、院試組の人の息抜きを兼ねて、僕の大学/大学院時代の研究室の思い出を、紹介しておきたいと思います。

京都に毎週行っていた頃は、休憩時間にいろいろな事を話していたのですが、遠隔となると、休憩時間はOFFになってしまうので、こういうところで補足しておきます。

もちろん、討議の合間に、いろいろ質問してもらっても構いません。


● 研究室選び 地味だけれど「つぶし」が利く研究内容と考え「材料」関係へ

僕が大学/大学院時代を過ごしたのは1990年台中ごろです。当時人気があった研究室は、多かれ少なかれ、「自動車」に関連する研究内容がメインのところでした。例えば、エンジンなどの熱力学を扱う研究室や、流体力学を扱う研究室などです。

楠浦さんはバイクの開発やっておられたんだから、内燃機関とか流体とか、そういう方面の研究をされてたんですかとよく質問を受けます。

そこで、研究内容は

「破壊力学です」

と答えると、色んな意味でポカンとされる方が多いように感じます。

破壊力学が、ちょっと馴染みのない学問であることと、熱とか流体とかやってたんだろうという予想を裏切ったという点の2つが重なるんでしょうね。

僕が「破壊力学」という学問を知ったのは、(たぶん)大学3回生で講義がある

「機械材料学」(日本材料学会編の同名の書籍が教科書)

の講義を通じてだったと思います。この教科書は非常によくできていて、社会人になってからも、よく読み直しました。金属材料だけでなく

「セラミックや、高分子材料」

の力学についても書かれていて、機械設計に携わる人なら、一冊持っておいて損はない本です。

僕は、同じ材料学会の関連書籍を、社会人になってから何冊か購入しました。

「疲労強度」
「金属間化合物」

関連の知識を補強する必要があったからです。

内燃機関は、

「材料の限界を超えた」

ところで使用されている部分もあり、

「破壊力学、疲労強度」
「表面処理、熱処理」
「耐熱材料、高強度材料、新材料」

の知識が問われることが多かったように記憶しています。

逆に、

「新しい内燃機関を考える」(オットーサイクル以外の、という意味です)

なんてことは、そうそう必要にはなりません。
(僕は、エンジン設計者時代、一度も熱力学の本を開きませんでした)

結果として、僕が大学時代に

「各種材料」
「疲労強度」
「破壊力学」
「熱処理」

の研究を行っていたことは、オートバイのエンジン設計者になる準備としては、正解だったように思います。

もともとは、

「競争が激しくない」

けれど

「つぶしが利く」

ことが学べそうな研究室、ということで選んだだけなのですが・・・。


材料を勉強したい方におすすめする本の一つです。
僕が設計者時代に愛読していた本の一つですので、
古くて申し訳ないですが。
社会人レベルですが、学生さんでも読める本です。

● 3年間の研究で得たモノ 先人の偉業/データの積み重ねの上に成り立つ

どこかにも書いたと思いますが、僕は、卒業研究・終了研究で全く同じ研究内容について、論文を書いています。

Life prediction by simulation of crack growth in notched components with different microstructures and under multiaxial fatigue
Fatigue and Fracture of Engineering Materials and Structures,21,2,201-213

多軸応力下での疲労強度に与える微細組織の影響、みたいな研究内容です。まぁ要するに

「マイクロ・ナノレベル(原子レベル)の組織の違いが、各種金属材料の疲労寿命や破壊の形態にどのような影響を及ぼすか」

ということを、チタン合金なんかを使って研究していた、ということです。

これがめちゃくちゃ地味な研究で、ある種、僕の性に合っていたのだと思いますが、予算の関係もあって、年に20-30点ぐらいのデータが取れれば恩の字という感じでした。

試験条件によっては、昼夜交代で一週間ぐらいかかる実験で、

「亀裂の進展を、ミクロン単位で測定しながら」

進める実験でした。

待ち時間が多いので、本が読めるのが最大のメリット(笑)で、アセトンと酢酸臭い地下の実験室で、語学書をよく読んでいました。

僕の論文は、10年ぐらい前からの先輩方が積み重ねてきたデータに、データを付け加え、成り立っていました。好き嫌いはあるでしょうが、時間がかかる研究というのは、そういうふうにしか進まない、ということです。

あまり進まないんだけど、確実に進める必要がある。

そういう研究でした。

実験と平行して、コンピュータ・シミュレーションをやらせてもらえたのも、良かったように思います。先輩方から引き継いだプログラムを理解しつつ洗練させ、破綻がないように仕上げていくというレベルでしたが、実験結果と理論をつなぐ

「モデル」

を考えることは、後々設計者として、

「現実的なモデルに従って、経済的な設計を行う」
「不具合の原因を突き止めるために、様々なモデルを立ててみる」

上で、役立ったように思います。

院試組の人は、院試勉強の息抜きに、この3年間の過ごし方をじっくり考えてみてください。

楠浦 拝




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