この2回で、発明が大きく進みました。
いずれの回でも、発明を考えていくうえで、重要な概念を取り上げました。
可能な範囲で復習しておきます。
発明提案書完成後、改めて振り返り討議の機会を持ちます。
● 「スジがよい」設計思想かどうか
僕が設計者だったから、かもしれませんが、システム、つまり、複数の部材が組み合わさって一つの機能を発揮するタイプの発明(例えば、エンジンとか航空機とか)において、この
「設計思想」
という考え方は、重要だと僕は思っています。
例えば、XXを用いた軽量化により航続距離を延ばす、という思想の航空機は
「ある部分の軽量化により、エンジンや搭載燃料なども軽量化され、ますます軽量になり航続距離も伸びる」
というような、ポジティブなフィードバックを持つシステムになりえます。
(ある部分の軽量化を打ち消すような補強を、どこかで補わないといけなくなれば、残念ながら、そうはなりません)
今回でいうと、設計思想は
「浄水機能を持つ部分を小型化したことにより、死残量(Dead Loss)が少なく、レスポンスがよい浄水供給装置」
になります。
これが筋がよいかどうか。
もう一度議論を振り返り、判断してみてください。
僕の経験上、良いシステムが創れる人は、この
「設計思想」
の段階で、スジのいい思想をスパッと選んできます。川崎重工で、多くの先輩を見て、実感しました。
カワサキのオートバイが、少なくともある時期非常にトンガっていたこと、世界最速の座に君臨していたこと、その後、ヤマハがYZFシリーズで業界を席巻したこと、など、いずれもこの
「設計思想」
によるものだと、僕は考えています。他、僕が実物や図面を見て
「いいなー」
と思ったシステムは、トヨタVizのエンジンなど、挙げるときりがありません。
「あいまいさ」「変動」を抑え込むのではなく、
「リターン」に生かす。
発明塾の考え方そのものだと思います。
● 「究極の理想状態」を考える
発明が公知になってしまわない範囲で、今回の発明が
「どのように詰まったか」
を振り返っておきましょう。別途、振り返りの討議も、必ず持ちます。
僕の中で、今回の発明の本質は
「複数(N個)の穴から」
という構成要素にある、と一旦判断しました。それにより
「装置のどこにおいても、同じ状態が維持される」
(先ほどの「死残量がない」とも関連する、重要なことです)
わけです。
そうすると、
「究極の理想状態」
の一つは、
「N→無限大」
の状態、つまり、穴が無数に空いている状態になります。
ですので僕は
「多孔質を使えば?」
と言ったわけです。
しかし、N個の穴を多孔質に置き換えると
「関連する別の構成要素」
も、変える必要が出てきます。一見
「一旦、詰まった(完成した)発明を、未完成の状態に戻している」
ように見えます。おそらく多くの人が、これができないのだと、僕は考えています。
「一旦、完成したもの」
を崩すのが惜しいのです。この心情に陥った人がやってしまいがちなミスの一つに
「さらに構成要素を付け加え」
たり
「ほかの構成要素に影響がない範囲で、構成要素を変える」
があります。これでは、究極の理想状態へ向かうことは難しくなります。
今回も、密接に関連するもう一つの構成要素を変えようとする中で、全く異なる
「シンプルで、とても美しい発明」
に生まれ変わりました。
僕は
「2円筒間のクエット流れを使えば?」
と言い、それに対する塾生さんの答えで、発明が一気に完成しました。
その間、
「1分か2分」
だったと思います。
(録音確認ください)
良い発明は、だいたいいつもそんな感じで
「一気に」
仕上がります。
その発明を見れば、それ以前の発明が
「工作的で、不完全なもの」
であること、および、その発明が
「理想状態」
に近いものであることは、すぐにわかると思います。
発明を詰める作業において
「どこまで考えればいいですか」
という質問を受けることがありますが、これ以上詰める必要がない発明は
「見ればわかる」
と、僕はいつも思います。ですので、これ以上詰める必要がないよね、と自信が持てない場合
「詰める余地がある発明」
「理想状態ではない発明」
なのだと、考えてもらって構わないと思います。
次回、発明提案書を議論し、時間があれば、振り返りも行いましょう。
一つ一つ、成果を出し、それを振り返りながら、積み上げていきましょう。
そのようにして積み上げたものは、容易には元に戻りません。
それを僕は
「進歩」
「成長」
と呼びます。
次回もよろしく。
楠浦 拝
P.S.
ちょっと作業が追い付いてませんが、過去アイデアも、今後、一部このページで公開してく予定です。
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