「発明塾®」へようこそ!: 小松製作所時代の発明(その1)

2014年11月18日火曜日

小松製作所時代の発明(その1)

こちらから移動しました。


今振り返ると、「もっとちゃんと出しておけば」と思う特許でもあり、また、「きちんと発明の本質把握と深堀りを行っていれば」と思う発明です。

もっとも、今と違ってほとんどの会社では「技術者に知財のことを教えよう」という風潮は皆無でしたし、「仕事で行ったちょっとした改善を、特許にする」のが特許活動だと、教えられていたので、仕方ない気もします。



詳しくは、塾で討議し、また「紙上講義(無料)」で紹介したいと思いますが、


「今ならどういう風に料理するか」


を、反省を込めてメモしておきたいと思います。



発明の内容

発明の内容は、以下参照ください。

特開2004-232500 「風力発電設備のナセル旋回駆動装置、及びその運転方法」


業界の方は、見ればピンと来ると思います。いわゆる


「ダウンウインド制御型風車」の「ナセル旋回駆動装置」

に関する発明です。内容は、まさしく開発中に提案した設計案の一つを、そのまま出願したものです。


請求項を読む

請求項1は、「単に漠然とさせた」だけの、今から見れば最悪の請求項です。課題の定義を間違えているので、上手い絞り込み方が、担当弁理士の先生に全く伝わっておらず、「単に漠然とさせた」請求項を追加していただいただけ、になっています。

今見ると、恥ずかしい感じがします。出願費用がもったいなかったなぁと、反省しています。


請求項2も、同軸ということだけを縛った、「漠然」系の上位概念です。


請求項3が、致命的に間違っていることに、今の仕事でこの特許を教材に使い始めて、明確に気づきました。「電磁」で縛るのは、ズバリ間違っています。

これも、「課題」をとらえきれていないことによるものであり、また、実施例(設計上の解決策)に引っ張られすぎたためです。


特開2004-232500 より


課題設定をどうすべきだったか

業界の方はご存知ですが、産業用モーターには、もともと「軸ブレーキ」がついており、それは、

「完全な固定」


用です。ブレーキをフリーにすれば、モーターは自由回転するので、


「固定か、駆動か」


は、ブレーキのみで切り替えることが出来ます。ここに、「クラッチ」の必要はありません。


では、なぜ旋回駆動装置に「クラッチを追加した」のでしょうか。



【0017】に、こうあります。


「発電停止をするような強風時で突風のあるときには少なくともクラッチをオフする(旋回ブレーキを備えている場合には、旋回ブレーキもオフする。)ことによって、突風または風向の急変による翼、タワー、減速機への過大負荷を無くすことができ、これにより、風車の翼の損傷やタワーの倒壊等の畏れが無い」


つまり、突風などで旋回駆動装置が「逆駆動」される際に、


「固定でも駆動でもない、自由回転」


状態を作り出すためです。このために必要なのは、


「(電磁)クラッチ」


に限りません。機械工学の知識は、今も昔もほとんど変わりませんが、今なら、


「飛び込み式ギヤ」


を含めた、様々な機械的な機構を、提案することが出来ます。オートバイのトランスミッションや、スタータの仕組みに、多くのヒントを得ることが出来ます。つまり、当時すでに身に付けていた技術で、


「クラッチ以外の、解決策」


を、多く提案することが出来たはずです。しかも、設計上も Better な・・・(注)。



重要なのは、課題として何を設定するか、ということと、それに従って「再発明」することだったのです。


それは、開発においても、特許活動においても、変わりません。



今から考えると、とても惜しいことをしました。



塾生さんには、こういう事例を基に、現状楠浦が考えうる「ほぼ完ぺきな発明と知財のスキル」が身につく教材で、学んでもらっています。

僕自身、技術者として発明を出す側でもあり、また、発明を引き出し/権利化する立場でもあるため、その教材も、常に最新の知見でアップデートしています。


※ 注) 何名かの方から「具体的にどういうBetterな解がありえるのか」というご質問を頂きました。たとえば、クラッチに相当する機構は、電磁ではなく「遠心」「ワンウェイのカップリング」の方がBetterでしょう。詳細は割愛しますが、「順駆動時は噛み合わせ」「逆駆動時は噛み合わない」という状態が必要になるからです。オートバイや自動車で、似たような機構は、すでに古くから使われています。
また、その際に組み合わせるブレーキは、耐久性を考えると「流体式」がBetterだと思います。

こういう議論も、発明塾で継続的に行っていきたいと思います。「過去発明を乗り越える」のが、発明塾式の本質だからです。