2013年9月15日日曜日

塾長の部屋(50)~「マクロ経済学を学ぶ」

以前から、

「これからの理系学生に必要なのは、金融工学/心理学/知財」


と言ってきました。僕は個別の株式投資はやらない(注1)のですが、経済動向を知るために「日経ヴェリタス」を購読しており、たまに塾でもその記事を紹介します。


偶然なのですが、ちょうど先週のヴェリタスに、「クアルコムとメディアテックの”レファレンスデザイン”戦略」(注2)が、取り上げられていました。



詳しくは、読んでいただくしかありませんが、


・スマホのチップメーカーが「スマホに必要な設計図と”部品のリスト”」を供給していること

・そのリストに偶然乗った部品は「大量に注文が来るようになった」こと

などが、インタビューも交えて書かれています。ヴェリタスは個人投資家向けの新聞?ですので、当然のことながら、


「どのメーカーの部品がリストに乗っているのか」


についても、掲載されており、投資家が「株を買う」ヒントになるようになっています。


「クアルコム/メディアテックの部品リストに乗る」と「株価が上がる」


みたいな時代なんですね。



ちなみに、隣のページにはTDK社長のコメントとして、


「チップメーカー(要するにクアルコム/メディアテック)に、毎日営業に行けと檄を飛ばしている」


と書かれています。


「携帯電話用電子部品を売りたければ、チップメーカーに取り上げてもらう必要がある」


ということでしょうか。「Enabler」モデルで無線通信の世界を牛耳るクアルコムと、ローエンドから猛追するメディアテックの「レファレンスデザイン」戦争。「知財/標準化戦略」が「業界企業の株価すら支配する」という、生きた教材になっています。



僕はいつも、


「勉強するなら、専門書を読みこなすと同時に、現実の世界で起きていることを、その知識ですぐに分析してみる」


勉強法を、勧めています。発明をしながら発明法を学んでもらう、という「発明塾式」も、ここから来ています。本を読んだり、人の話を聞いて満足していては、結局身に付かないからです(注3)。



例えば、マクロ経済学の本(注4)を読むとします。たぶん、何もわかりません。併せて「日経新聞」の月曜版にある「マクロ経済指標」を、分析して「今の世界の経済動向はどうなっているのか、今後どうなると予測できるか」自分なりに「仮説立案」することを、おすすめします。


何ヶ月か経てば結果が出ますから、自分の分析力が試されるわけです。結果が速く出るので、分析力を鍛えるには最適です。



偶然ですが、今週のヴェリタスには、金融工学といえばこの人「ジョン・メリウェザー」について、マネックス証券の松本氏が、コラムで取り上げています。


御存知の通り、メリウェザーはソロモン・ブラザーズで債権トレーダとして活躍し、副会長にまで上り詰めた後、ノーベル賞学者2名(注5)を擁するLTCMを設立します。


LTCMについては、「最強ヘッジファンドLTCMの興亡」という本に、経緯が詳しく書かれていますので、読んでみると良いでしょう。


その他、金融工学(注6)の失敗の歴史については、例えば


「デリバティブの落とし穴-破局に学ぶリスクマネジメント」可児


などに、いくつかの典型例が書かれています。



以前、「知財の利回り」執筆中の岸先生から、


「楠浦さんは、知財取引が、ブラック・ショールズの確立微分方程式のような、数学の世界に行き着くと思いますか?」


という問いかけが有りました。その時も「Yes」で返答しましたが、現時点でも、それは変わっていません。優秀な理工系の人材が流入する限り(注7)、金融工学は今後も進化し続けるでしょうし、「知的財産権」は、その名の通り「取引可能な財産の権利書」なのですから、財産として「健全に」取引されると思います。


「会社」が(株式という形で)市場で広く取引されているのに、その会社の一資産である「知財」が市場で取引できない理由は、無いでしょう。

いつものことですが、残念ながらその扉を開くのは日本ではないでしょうから、欧米の知財権取引の動向(注8)に、今後も注目したいと思います。




※ 注1) 詳しくは以下参照。


・「塾長の部屋(2)~塾長の休日?」

 http://edison-univ.blogspot.jp/2012/08/blog-post_19.html


※ 注2) 「レファレンスデザイン」については、例えば以下。


・アップル苦しめるクアルコム「格安スマホレシピ」

 http://www.nikkei.com/article/DGXZZO54574310R00C13A5000000/

クアルコムについては、立命館大学MOT大学院での講義でも、度々取り上げています。


・立命館大学MOT大学院 第5回講義を終えて~クアルコムが携帯電話業界の覇者になるまで

 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/07/mot.html


※ 注3) 第146回で取り上げた「復活した塾生」が、自分失敗を振り返って、以下のように語ってくれています。他の塾生も、耳が痛いはずです。長いですが、需要なことなので、引用しておきます。


・一つ一つの学びを整理、消化できてない

 発明塾に初めて来た僕は、これまで触れたことがないような議論に関われるのが楽しく、それだけで満足してしまいました。また、長時間の議論のあと振り返りを作る元気がなく、毎週毎週、ひとつひとつの話題をちゃんと吸収することができていませんでした。ノート、MMなんでもいいので、その日の内容を書き出して、何をやったか、どう考えたか、どれを吸収すべきかを(なるべくあとから見てもわかるように)明確にするのはやはり重要だと思います。

・結果が出せない
 ひとつひとつの学びを消化出来ていないので、当然求められる結果も出せません。ただ、結果が出せない理由はそれだけではなく、とりあえず何かしら考えたことを出してみる勇気が足りない(プライドが高い)、とりあえず忙しいから……と結果を出すのをなんとなく先延ばしにしてしまう(強制的に結果を出す仕組みがない)、というのも理由としてあります。

・発明塾京都第146回開催報告~「他を活かす」

 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/09/146.html


※ 注4) 参考書は別のところにも挙げていますが、念のため。僕は基本的に、自分で読んで良かった本のみを推奨するので、若干古い点はご容赦下さい。この辺を参考に、もっと新しい、いい本を是非各自で探して下さい(で、紹介して下さい)。


・スティグリッツ、例えば「経済学入門」「マクロ経済学」等

・ガルブレイズ、例えば「経済学の歴史」(彼は経済史が専門)
・「ゼミナール経済学入門」福岡(日経新聞)。非常に丁寧な数式の展開で、経済学を理詰めで理解できるので、数学が好き/得意な人には、特にお勧め。
・日本の著名な経済学者の代表的な本/総説など。例えば、
 「経済学とはなんだろうか」佐和
 「自動車の社会的費用」「経済学の考え方」宇沢
 「現代経済学の巨人たち」「経済学 名著と現代」「経済学の巨匠-26人の華麗なる学説入門」

他、サミュエルソンの教科書等、挙げればきりがないですが、経済学を専攻するのでなければ、上記で十分だと思います。


※ 注5) マイロン・ショールズ(ブラック・ショールズ方程式)、ロバート・マートン


※ 注6) 参考書として例えば「ビジネスマン必修 金融工学講座」


※ 注7) 金融工学が、NASA出身の物理学者/数学者やロケット工学の専門家によって生み出されたのは有名な話ですが、記憶に新しいところでは、以前「カオス/フラクタル」のところで取り上げた「ベノワ・マンデルブロ」が、株価の分析に、「フラクタル理論」を適用し研究している。


・発明塾京都第143回開催報告~「偶然に必然を見出す」J.モノーに学ぶ

 http://edison-univ.blogspot.jp/2013/08/143j.html


※ 注8) IPXIのメンバーが日本に営業?に来た際に、面談のお声掛けを頂いたのですが、日程が合わず、残念ながらお会いすることが出来ませんでした。その後、Webミーティングなどには参加して、常に動向をウォッチしています。