「発明塾®」へようこそ!: 発明塾京都第136回開催報告~なぜ「完璧」を目指せというのか

2013年6月29日土曜日

発明塾京都第136回開催報告~なぜ「完璧」を目指せというのか

第136回も無事終了しました。参加メンバーは、お疲れさんでした。

ある程度の在籍歴のメンバーの大半が、この3ヶ月で何らかの発明に到達したようですので、後はしっかりSRに落とすようにしてください。いつも言うように、この過程で、発明の本質が明らかになることもしばしばです。

A4で1-2枚程度の文章では、自分の発明が何なのか、自分で把握することすら覚束無いと思いますので、しっかりと標準的な枚数を、書き上げるように。僕がいつも書いているぐらい書かないと、伝わらないと思いますけどね、実際。

今回の討議の反省点は、以下でしょう。

①自分で考えきれていないものを討議に持ち込んでも、余計に混乱する。
②他の人に何をどうして欲しいのか、これを間違えると、お互いに時間を無駄にする。

これは、発明にかぎらず、「プロ(注1)」として「仕事」をするのに必要最低限のリテラシーです。

「発明塾に行ってました」→「発明塾も大したこと無いな」

とならないように、今一度基本的なことを徹底しておきます。


僕が共に活動する人たちに求めることは、物凄くシンプルです。今回の議論を通じて、3つにまとめてみます。時代錯誤との批判を承知で、敢えて書きます。そう思う人は、塾に来なければいい、たったそれだけですから。

①「自分なりの完璧」にしてから、次の工程に渡す。常に完成度を追求する。仕事において最大限創造性を発揮し、自己実現(物事/自分を、その在るべき姿に、自らの手で在らしめる:B価値)を目指す。

②どんな細かい部分にも、理由/根拠をもっている/確認する。安易に前例主義に陥ろうとする心理的バイアスを、常に疑い、回避する。

③「確認」「チェック」という言葉を曖昧に使わない。自分なりの確認/チェックの方法を持った上で、誰に何を確認して貰う必要があるのか、具体的に依頼する。そうでなければ、確認依頼は「責任回避」にしかならない(あなたも確認しましたよね、みたいな)。不毛で無駄な作業。クリエイティブとは程遠い。


上記考え方の基になっているのは、僕自身のカワサキ(川崎重工)での、オートバイのエンジン設計者としての経験です。

企業や担当商品により異なりますが、カワサキのオートバイ部門では、開発工程の全てに設計者が責任を持つことになっています。

機種によっては、商品企画段階から、課長係長クラスは先行調査で世界中を飛び回りますし、通常は、量産ラインで担当するオートバイが製造されて、販売されてから初期不具合が落ち着くまで、走り回ることになります。神戸港に不具合改修に行く、ということもあります(教育的配慮と人手が足りないのと、理由はその時々で色々あると思いますが)。

なんでそうなるかという理由は、たった一つ。

「設計図面に名前が書いてあるから」

です。過去には、

「図面に名前書いたら負け

と豪語した方もおられます(笑。もちろん冗談/皮肉です。書いたからには、全責任を負え、お前にその覚悟がないなら、設計なんかやるな、安直に図面を出すな、ということです。

何が「負け」かというと、

その図面を見て、ありとあらゆる部署から、質問や相談や不具合対応、コストから生産性、生産能力や部品メーカーの社内基準に至る、ありとあらゆる理由に起因する設計変更要望が、その図面の「最初の署名者」に寄せられる(注2)

からです。決して「最終署名者」(=大抵は部長)では無いところが、非常に重要です。「その図面を実際に担当した人間」が、総ての責任を負うことになります。

僕は、「素晴らしい職場だ」と思いました。だって、やりたい放題じゃないですか(笑

気を抜いて書いた図面に対して、よくあるダメダメなQAを挙げておきます。大抵、電話です。

‐(製造部門)「なんでこの図面のここの許容差は、‐XXから+YYなんですか?なんか理由あるんですか?」
‐(設計者) 「いやー、ZZZという機種と同じなんですけど、なにか問題有りましたでしょうか。。。」

即アウトです(笑。 問題なければ電話はかかって来ません。僕の中では、

「39工場品管のAA課長から電話ですー」
「19車組(車体組立)品質管理のBBさんから電話ですー」

の呼び出しは、要注意でした。品質管理(品管)から設計者へ、電話がかかってくる。大体ロクな要件はありません。

「お宅が く す う ら さん?」

という慇懃無礼な確認から始まって、

・図面がおかしいのではないか?
・図面通りに作れないから、図面を変えてくれ
・図面通りに作れなかったものが、使えないのか確認して欲しい
・そもそも、この図面のこの寸法にどんな理由があるのか教えて欲しい
・だからやっぱり、図面がおかしいのではないか?
(→お前、なんも考えずに図面書いてるやろ!)

こういう質問風な依頼、非難の嵐である。理路整然と、かつ淀みなくその場で全てに答えられないと、図面を変えるハメになる。まぁ、もともと「理由なく」図面を書いていたのだとすると、当然変えざるをえないと思いますが。こちらに理がなく、相手には理が在るわけですから(作れない、このまま使ってくれたら、安くなる等、図面を変えてくれという口実は、無限に存在する)。

僕自身、上司がOKでも品質管理のとバトルでNG、みたいなことを何度か繰り返すうちに、

「結局自分で全て考えぬいて、図面の寸法一つ一つの理由を徹底的に説明できるようにするしか無い。というか、理由ない数字や線を、一文字、一本でも書いたら負け。そもそも、それが『設計』という仕事。線を引くことが設計ではなく、その線を引く根拠を考え、検証し、実証するのが設計」

ということに、至りました。同じようなことは、部品メーカー・購買部門/製造ライン/品質保証部/試作部門/試験部門などありとあらゆる所からの問い合わせで、生じます。実際開発が始まると、設計者は昼間は電話対応が仕事で、夜が設計の時間、という笑い話のような生活になります。

購買部門や製造ラインは「ここの寸法を変えてくれたら、XX円安くなる」、品質保証部からは「この材質はVVの不具合の可能性があるが、なんで使っているのか」、試験部門からは「図面通りできているのに、性能が出ない。図面がおかしいのとちゃうか?(注3)」

まぁ、こういう話のオンパレードである。

自分の書いた図面の隅々に、徹底した計算や思考に基づいた根拠がなければ、とても耐えられない仕事、といえるかもしれない。

ちなみに僕は、この「設計」という仕事が大好きでした(たぶん今でも)。隅々まで考える、ということ自体がまず楽しく、また、その責任の裏返しである権限、つまり、すべてに根拠が有れば、世界中の人が、自分の図面通りに物を作って世の中に出してくれる(協力してくれる)、ということを、本当に心から楽しんでいました。

設計者に向いている人は、そういう人かな、と思います。そういう人が多いと、いい商品ができます。僕は経験しました。

おさらいしましょう。

①自分なりの「完璧」の追求
自分の名前が入った自分の仕事、であるからには、上司がどうとかではなく、自分なりの完璧を追求する。そうでなければ、製品品質も、自分も、自分/職場の仕事のプロセスも、いずれも向上しない。向上する仕組みを織り込まない仕事は、堕落への道である。現状維持は、撤退なので。

②すべてに「理由」があるか
すべてのことには理由がある。理由なく仕事をすると、相手に理由があったときに負ける。常に仕事には相手(お客さんかもしれないし、下流部門かもしれないし、上流部門かもしれない)がある。相手の視点ですべてを見直し、そこに、「それがそうでなければならない、どのような理由が存在するか」一つ一つ確認する。
これを「確認」「チェック」と呼ぶ。客観的視点である。それを、積み重ね、精緻化し、プログラム化することで、「客観的な」仕事の完成度が上がる(①につながり、①を超える)。

③「チェック」とはなんぞや
つまり「チェック」してもらう、というのは、結果を診てもらうことではなく、その思考回路、自分の確認のアルゴリズム、プログラム、根拠を確認してもらうことである。自分なりの完璧と、それまでの指摘や経験を踏まえた「そのときの自分」なりの客観の徹底が有ってこそ、人に見てもらって意味がある。また、
「自分はXXのようにチェックしたが、ZZZの観点で、特にYYYを重点的に見て欲しい」
と言えなければ、プロの仕事ではない。単なるお勉強か、責任逃れ(あなたOKって言いましたよね)である。
君は、その仕事を「自分で」完成させたいと、本気で思っているのか?ということになる。これ以上はできませんごめんなさい、はプロではない(たとえそれが給料であったとしても、お金をもらう資格は無い)。

当時のカワサキには、僕と同じように、ネジ一本の長さに至るまで根拠を確認しながら、優れたオートバイを作ろうという意欲にあふれた若手設計者が、少なからず存在しました。今思い出しても、素晴らしく楽しい職場でした。

設計者として、プロとして力を付けたい人は、このような職場を目指して就職活動すると良いでしょう。年収とか、職場の「雰囲気」(そんなもん聞いてどうする?)とか、勤務地とか、有給休暇の取りやすさとかではなく、

「どれぐらいプロな人がウヨウヨしているか」

を規準として(そして質問として)、就職を考えてみてはどうでしょうか。ちなみに僕自身、社内をそういう「プロで埋め尽くしたい」と思って、現在も採用活動を続けています。

脱線しましたが、まずは3ヶ月の第1ターンが終わりましたので、各自しっかり自分の課題を抽出し、改善出来るように次の3ヶ月の目標(結果目標と、プロセス目標)を定めてください。


P.S.
3ヶ月の振り返りとして、あと2つ追加しておきます。

①「成長する塾生は、自分の理想をもっている」
例えば最もわかりやすいのは、理想のSRはどう在るべきか、の具体的なイメージ、もしくは手本を持って、それを常に見返している。

②「同じ失敗を繰り返す/進歩しない塾生は、言われたことをブレークダウンできず、ただ時間だけ掛けている」
もっとよく調べてきて、と言われた場合「もっとよく調べるとは、具体的にどういう作業なのか」と、具体的作業(手続き、動作)にブレークダウンしないと、「なんとなく長い時間調べ続ける」で終わってしまう。
「もっとよく考えて」「もっとよくチェックしてきて」に対しても同じ。プログラムを書く、と考えればわかりやすい。


注1) プロの定義は、別所にて。

注2) だから最初は適当に出しとけばいいんだ、という方もおられました。しかし、製品の性格上、人の命を預かるものなので、少なくとも僕はその考えには賛同できませんでした。もちろん、そういう考えで仕事をした事は、僕は一度もありません。
たとえ上司が「そんな寸法は適当でいい」と言ったとしても、現場から根拠を求められるのは確実ですので、自分なりに根拠を持って図面を出していました。寸法計算で上司とモメても「最後に責任問われるのは、図面に署名している僕ですよね」と言って押し切ったことも、何度もあります。

注3) 以前書いたと思いますが、製造ラインの検査員が見逃した不具合を、検査員がその部品をテーブルに置くときの、たった一度の「音」で見抜いたことがあります。「何かが違うはず」という信念が、この時の不具合部品の発見につながりました。当初「図面が間違っている」と散々非難されましたが、最終的に「製造ミス」+「検査ミス」という極めてお粗末な結論となりました。
ベテラン検査員が何人も寄ってたかって、20回も30回も検査して見抜けない不具合を、入社1年目の設計者が、たった一つの「音」で見ぬく、ということも、根拠を持って設計をしていれば、可能なのです。向こう以上に、こちらがプロだった、ということだと思います。
それ以降、仕事がやりやすくなったことと言ったら。。。(笑