「発明塾®」へようこそ!: 「IBM」「ハネウェル」「アルトリア」のIRを読む~ビジネスモデルを知り、事業・競争環境の変化を知る

2016年6月24日金曜日

「IBM」「ハネウェル」「アルトリア」のIRを読む~ビジネスモデルを知り、事業・競争環境の変化を知る

今週は明日開催とのこと。

6月末に提案書が出せるよう、詰めを抜かりなくやってください。


さて、7月以降の布石として、いくつか話題を振っておきます。どこをどう読むか、一つの企業ですべて取り上げるのは、いろいろな意味で難しいため、今回は3社の資料を、それぞれの実態に合わせた視点で読み解きます。

トップバッターは、「IBM」です。


● 「IBM」のビジネスモデルと「Watson」

MorningStarのサイトが使いやすいでしょう。「よく使うリンク」にも入れています。
10年分の推移が整理されています。順に行きましょう。

Financials
こちらのセミナーでも取り上げますが、IBMは一時の勢いを完全に失っており、経営再建中と理解したほうがよいでしょう。
ただ、利益率は向上しており、やるべきことをやっていることは伝わってきます。
EPS、配当、配当性向、自社株買いの傾向も、一貫しており、この辺りはさすがですね。
フリーキャッシュフローも、過去水準から見て問題ない範囲でしょう。

KeyRatio
R&D費用も、売り上げの6%前後で、一定範囲の金額を振り向けているようです。
ずーっと行って、「ROE」の数字がおかしいことに気づけば正解です。
これは、IBMの事業の一つに「ファイナンス」があるからです。
IRに書かれていますが、財務レバレッジを7前後で調整しているようです。
「製造」業の感覚から見ると、これは極めて高い数字ですが、

・IBMの信用(これも資産です)を生かし、低金利で資金を調達
・「リース」を活用し、大きな金額の商品を販売するハードルを下げる
・金利を稼ぎ、利益率を改善する

という視点で見れば、一つの「戦略」です。別途取りあげるGEも、IBMほどではありませんが、ファイナンス部門を活用しています。


2015決算資料
「クラウド」「ワトソン」に目いっぱい舵を切って、一気に勝負に出ているようです。
SEC Form 10-K には、「セキュリティ」「医療」「気象」の分野で、特に「ワトソン」の取り組みを加速させるとあります。M&A履歴を見ると、「医療」が特に目立ちますし、金額も徐々に大きくなっています。

KeyRatioのところで言及した、「ファイナンス」の事業含め、事業構成は以下のようになっています。
(以下は、FY2015決算報告資料から抜粋)




ワトソンは「Cognitive」に入ります。25%ぐらいでしょうか。細かい事業構成は、専門的すぎるので割愛します。mobile、middleware、cloud、あたりをKWに、10-Kを読んでみると「今のIBM」が見えると思います。 

今回は、さらっと見ていきます。



● 「Honeywell」とIoT

本当は、GEを取り上げようかと思いましたが、GE Capital 切り離しで数字が見づらいのでやめました。ちなみに「数字はこんな感じ」です。10-K をかなり入念に読まないと何も見えてこないので、今回はハネウェルにします。皆さんが詳しくなってから、再度取り上げます。

ハネウェルは、「一足先に」事業再編がおわり、数字がわかりやすく、かつ、継続的に上がっています。「こんな感じ」です。ほぼすべての指標で、「成長している」ことが確認できます。練習のため、IBMと対比し確認してみてください。

ハネウェルについては、Annual Report(2015) から、以下グラフだけ取り上げます。




曰く「我々は、ソフトウェアの会社だ」と。GEを意識している?と思ってしまいました。

不調のGE尻目に好業績を維持するハネウェル(WSJ)
米GE:デジタル事業の成長は2020年以降加速(ブルームバーグ)

航空宇宙、精密サーモスタットなどの自動化機器、ケミカル部門など、GEとはやや事業構成が異なりますが、「ソフトウェア化」に先手を打ち、経営を成長軌道に乗せているとも読めます。IBM、GEは「ファイナンス事業」からの脱却に、やや時間をとられている印象を持ちました。

ハネウェルの数字を見ると、こんなに順調な「機械」メーカーがありえるんだなと、少し驚いてしまいます。個人的には、「サーモスタット」「各種インフラ用のメーター」に注目しています。

「IoT」そのものですから。

GEが「産業用ソフトウェアのトップ企業になる」と宣言していますが、それに対するハネウェルの答えがどうか。このようにして読んでいけば、IR資料は非常に面白いものになります。

きちんと読めば、新製品、新事業のネタが、いくらでも出てきます。

次へ行きましょう。



●「アルトリア」は、「精密時計のような正確さ」で事業を運営する

最後は、アルトリアです。経営の歴史、という意味ではレイノルズアメリカンを取り上げたいところですが、先日の大型買収により財務諸表は少し見づらいので、わかりやすさ優先でアルトリアを取り上げます。

ちなみに、大きな数字の変化があった場合、必ず「何があったのか」の確認をするようにしてください。M&A、事業分離、大型の訴訟など、原因は多岐に渡ります。根源的なものもあれば、一時的なものもあります。企業を「読む」上で、これらの見極めが重要です。

アルトリアの数字は「こんな感じ」です。アルトリアも、食品部門(クラフト)・フィリップモリスインターナショナルの切り離しなどがありますので、2008以前の数字は、一旦無視しましょう。2009以降の各種利益率、EPSやそれらの伸びを見ると、ある投資家が評したように、まさに「時を刻むように利益を刻む」企業であることがわかります。

IR資料を読むと、EPSの伸びは8%を目標にしており、実際、昨年は8%でした。
(そして、ものすごい財務レバレッジです)

どうして、このような安定的?な事業運営が可能なのでしょうか?

一つだけ、表を掲載しておきます。レイノルズアメリカンの資料から、です。




レイノルズアメリカンの変遷について、成城大学の山口氏がわかりやすくまとめておられます。参考にしてください。この「業界」を俯瞰するための資料として、非常に有益です。

R・J・レイノルズ社の経営史(1875-1963年)
R・J・レイノルズ社の衰退(1970-1980年代)

アメックス、RJRナビスコを経て、IBMの立て直しを率いたガースナーの話など、今回取り上げた企業はいずれも、経営者という面でも、知っておいてほしい企業です。ハネウェルは、GE出身のアダムチク氏がTopを務めています。ハネウェルと合併したアライドシグナルでTopを務め、名経営者として知られるボシディ氏も、知っておいてほしい経営者の一人です。

「単に数字を追う」だけでなく、その歴史や経営者についても、しっかり学んでください。

「数字から仮説を立てる」
「仮説を、IR資料で検証する」
「背景にある競争力を探る」
「経営者を知る」

経営者については、「Proxy」に、経歴や、付与されているストックオプションとその行使条件などのインセンティブが、細かく記載されています。ここから、「誰が、どういう方針で」経営を行っているかについて、有益な情報が得られます。


以上、アメリカを代表する企業から3社を取りあげ、

・数字
・戦略
・競争環境
・歴史的背景
・経営者

などの見方を、簡単に紹介しました。今後、これらを教材化し、各自が自由に学べるようにしていきます。「e発明塾」のラインナップに加える予定です。


長くなりましたので、続きは各自で読んでもらうことにしましょう。


楠浦 拝