第5回の講義を振り返りましょう。
今回は、僕がこの業界(知的財産)に入って以来、最も深くそのビジネスモデルを研究している企業「クアルコム」の事例を取り上げました。
水平分業(研究開発と、半導体チップ&知的財産の提供)に転換し、大成功を収めるまでには、やはり紆余曲折があったわけです。時系列で見てみましょう。
● 設立当初
・1985年 創業 「当初、具体的な製品は何もなかった」
書籍などによれば、会社の”最初の”売上は、学会での講演費数万円であった。よくある話である。私も度々経験がある。
・1988年 CDMAの概念を発表
すでに軍事用の暗号通信技術として知られていたCDMAを、携帯通信に応用することを考えて、発表。当時の業界、学会の反応は「そんなことは不可能」。「嘘つき」呼ばわりであった。
・1989年 サンディエゴでフィールドデモを実施
実際にCDMA技術にて通信が可能であることを実証。当時の反応は「サンディエゴは大きなビルがなく、携帯通信に大きな障害がないから、たまたま上手く行っただけ」。
・1990年 ニューヨークでフィールドデモを実施
大きなビルが乱立する環境でも、携帯通信が可能であることを実証。当時の反応は「???」。
・1993年 TIA(米国電気通信工業会)の規格に採択(第2世代の携帯通信規格)
● CDMAで「移動体通信」と「世界」を変える
その後の快進撃は有名ですね。
・1995年 世界初のCDMAのサービスが香港で開始
(創業から10年経っています)
・1996年 韓国及びアメリカでCDMAのサービス開始
・1998年 KDDI(日本)がCDMAサービス開始
この後、第3世代の通信規格について、主導権争いをエリクソン(W-CDMA)と繰り広げます。
・2010年 3Gの契約数が10億を突破。
当初「社員数が100名を超えれば大成功」と考えていたクアルコムが、現在社員数「2万7千名」、売上「2兆円」の巨大企業となった。
● 従業員満足度が高い企業
ちなみに「従業員満足度」の高い会社としても有名です。
・「フォーチュンベスト100」にランクインした主要IT企業の自発的退職率
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070608/274140/
クアルコムは「1%」です。
数多くのM&Aを行なっているようですが、それぞれの会社の研究開発拠点は、そのままクアルコムの研究開発拠点として、引き継がれているとのこと。研究開発拠点が多いのは、上記が大きな理由だそうです。
当初のコンセプトを、地道な研究開発を通じて実証し、同時に研究成果を確実に知財化してきたクアルコム。「技術者と弁護士の会社」と揶揄されることもあるようですが、「知を財に変える」ために、どのような活動をしなければならないか、非常に示唆に富んだ事例です。
まさにMOT(Monetization of Technology)、と言えるのではないでしょうか。
既に発明塾では、このモデルを取り上げて「国際標準化と事業戦略」について、講義を度々行なっていますが、立命館大学MOTの特別セミナーとして、この夏に同様の講義を行う予定です。
興味が有る方は、このBlogでの告知に注意しておいてください。
では!