「発明塾®」へようこそ!: 「出図」をめぐる思い出~「設計」という仕事/京都大学講義「ものつくり講義2016」

2016年11月6日日曜日

「出図」をめぐる思い出~「設計」という仕事/京都大学講義「ものつくり講義2016」

前回も触れたのですが、「設計」の仕事につく/志す塾生が増えていること、また、先日、京都大学での講義で、担当教官の方にお伺いしたところ、

「最近、重工系の企業志望者が増えているんですよ」


とのことをふまえ、講義に出席頂いた学生さんへの追加情報提供も兼ね、今回も、


「設計という仕事」


について、書きます。



今回は特に、設計者の


「アウトプット」


である、


「図面」


の提出(締切)、いわゆる


「出図」(出図日)


をめぐる思い出を取り上げます。



カワサキ(川崎重工)、コマツ(小松製作所)、いずれでも設計者としての仕事を行って感じましたが、設計者の仕事がどこまでか、は、企業により、かなり大きく異なります。

(個人の裁量/意欲によっても、大きく変わると思います*)

しかし、設計者のもっとも重要なアウトプットが


「図面」


であることは、多くの設計の仕事において、共通だと思います。


そして、アタリマエですが、図面には


「締切り」


があります。


製品は、図面がなければ


「作り方の検討」


すらできません。したがって、出図が遅れると、すべての工程が遅れます。

(実際、僕が担当した機種でも、細かい理由はともかく「大きくは設計に起因する色々なトラブル」で発売日が遅れ、多くの方にご迷惑をおかけしました)


オートバイのエンジン担当の場合、1回の出図期間中に、大小様々な図面を100~150点分以上提出し、納品図/や仕様書を数十点確認/承認し、組み立て等に使う図面を数十点提出するなど、


「図面の作成と承認」


に明け暮れます。これが、開発ステージによっては、年に2回来ますので、新機種開発担当になると・・・という感じです。今はわかりませんが、出図後にお盆休み、正月休みが来ることが多いため、納入される部品の確認、製造/各種テストの立会いや不具合対応などに、それらの休み期間が充てられるという、合理的?なスケジュールになっています。



京都大学講義より



出図/承認は、


「大物から小物へ」

「完成品から、機械加工(マシニング)、素材へ」
「部品から組み立てへ」

と行われます。



大物の出図が終わり、小物出図をしていると、生産技術/製造担当の方から、


「このままでは、モノが作れないので・・・」


という、例の


「呼び出し」


がかかります。


言われるがままに承認していると、


「作りやすいかもしれないけれど、カッコ悪くて、重くて、性能が全く出なくて、すぐに壊れる」


ような製品ができあがってしまうため、こちらも知恵を絞りながら


「ギリギリ」


を攻めます。



多くの場合、


「この部品を変更すると、隣の部品も変更しなければならない」


ぐらい、元々攻めた作り込みがなされているため、時には


「強度計算」


からやり直し、つまり、設計をやり直して、


「関連図面を全て変更する」


ことになります。


「設計変更」


と呼ばれるこの作業によって、再提出する図面は、指数関数的に増えていきます。

(一回の出図期間中に、おそらく500枚以上、図面を書くことになります)
(一点の部品/図面を、数十回設計変更/改訂することも、よくあります)


製造部門での「試作」が始まると、このやり取りは、更に頻度を増します。


「やってみたら、できなかった」

「こうなってしまった」

そんな連絡が、怒涛のように押し寄せてきます。たとえば、エンジン設計の担当者は、300点以上あるオートバイのエンジン部品全てを見ているため、電話やFAXへの対応、現場/現物の確認だけで、日々終わってしまいます。


「とにかく、発売日に、ファンの期待に応える製品を間に合わせる」


ために、


「つくれるか」

「性能は出るのか」
「安全か」
「コストは問題ないか」

という、


「トレードオフの塊」


でしかない難問を、


「毎秒毎秒解き続ける」


それが、設計という仕事です。



そして、


「解を、後工程の人がわかるように表現する」


のが、


「図面」


です。


一つの図面が出図締切に間に合わないと、その後、加速度的に出図が遅れます。


たとえば、図面を待っている


「購買担当者」(協力企業へ、見積もり、検討を依頼いただく方)

「製造部門/生産技術担当者」(組み立て、機械加工、熱処理、素材、金型・・など、細かく別れます)

方への配布が遅れないように


「自分で印刷して、配布する」


必要が出てきます。場合によっては、


「直接持参」


することもあります。


既に遅れているのですが、これらの追加作業により、さらにどんどん遅れます。



「どこかで大きく挽回する」




「もともと、かなり前倒しで出図する」


ようにしないと、出図期間の最後の頃は・・・になります。


元々のスケジュールがハードなため、体を壊す関係者が出たりすることも、しばしばあります。すると、さらにハードなスケジュールになります。



塾で、「前倒しでやってね」と繰り返し言うのは、上記のような経験があるからです。


明日どうなるかわからないため、今日時点で、できるだけ


「ゲイン」


しておく必要があります。経験上、だいたい


「明日の状況は、今日より、かなり悪くなる」


ものです。


「遅れに遅れまくっても、誰も助けてくれない」


ため、


「最初から自分で、完遂できるように、いろいろなことを組む」


しかありません。



こう言うと、


「そんな大変な仕事はやりたくない」


と思うのではないか、と僕は思っていますが、塾でこういう話をする度に、なぜか塾生さんは


「設計者になりたがる」


ので、とても不思議です。



ボストン・ポップスの指揮者 キース・ロックハート が


「責任中毒」


という言葉で、指揮者という仕事の面白さを表現しています。


「設計者と指揮者」


共通点がある気がします。



長くなりましたので、続きはまた。



今年も、忘年会は、東京・京都それぞれ行いたいですね。


スケジュールが見えてきたら、また連絡します。



楠浦 拝



* 僕は、口を出しすぎて?、「エンジン製造ライン出入り禁止」になったことがあります(笑



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