「最近、重工系の企業志望者が増えているんですよ」
とのことをふまえ、講義に出席頂いた学生さんへの追加情報提供も兼ね、今回も、
「設計という仕事」
について、書きます。
今回は特に、設計者の
「アウトプット」
である、
「図面」
の提出(締切)、いわゆる
「出図」(出図日)
をめぐる思い出を取り上げます。
カワサキ(川崎重工)、コマツ(小松製作所)、いずれでも設計者としての仕事を行って感じましたが、設計者の仕事がどこまでか、は、企業により、かなり大きく異なります。
(個人の裁量/意欲によっても、大きく変わると思います*)
しかし、設計者のもっとも重要なアウトプットが
「図面」
であることは、多くの設計の仕事において、共通だと思います。
そして、アタリマエですが、図面には
「締切り」
があります。
製品は、図面がなければ
「作り方の検討」
すらできません。したがって、出図が遅れると、すべての工程が遅れます。
(実際、僕が担当した機種でも、細かい理由はともかく「大きくは設計に起因する色々なトラブル」で発売日が遅れ、多くの方にご迷惑をおかけしました)
オートバイのエンジン担当の場合、1回の出図期間中に、大小様々な図面を100~150点分以上提出し、納品図/や仕様書を数十点確認/承認し、組み立て等に使う図面を数十点提出するなど、
「図面の作成と承認」
に明け暮れます。これが、開発ステージによっては、年に2回来ますので、新機種開発担当になると・・・という感じです。今はわかりませんが、出図後にお盆休み、正月休みが来ることが多いため、納入される部品の確認、製造/各種テストの立会いや不具合対応などに、それらの休み期間が充てられるという、合理的?なスケジュールになっています。
京都大学講義より
出図/承認は、
「大物から小物へ」
「完成品から、機械加工(マシニング)、素材へ」
「部品から組み立てへ」
と行われます。
大物の出図が終わり、小物出図をしていると、生産技術/製造担当の方から、
「このままでは、モノが作れないので・・・」
という、例の
「呼び出し」
がかかります。
言われるがままに承認していると、
「作りやすいかもしれないけれど、カッコ悪くて、重くて、性能が全く出なくて、すぐに壊れる」
ような製品ができあがってしまうため、こちらも知恵を絞りながら
「ギリギリ」
を攻めます。
多くの場合、
「この部品を変更すると、隣の部品も変更しなければならない」
ぐらい、元々攻めた作り込みがなされているため、時には
「強度計算」
からやり直し、つまり、設計をやり直して、
「関連図面を全て変更する」
ことになります。
「設計変更」
と呼ばれるこの作業によって、再提出する図面は、指数関数的に増えていきます。
(一回の出図期間中に、おそらく500枚以上、図面を書くことになります)
(一点の部品/図面を、数十回設計変更/改訂することも、よくあります)
製造部門での「試作」が始まると、このやり取りは、更に頻度を増します。
「やってみたら、できなかった」
「こうなってしまった」
そんな連絡が、怒涛のように押し寄せてきます。たとえば、エンジン設計の担当者は、300点以上あるオートバイのエンジン部品全てを見ているため、電話やFAXへの対応、現場/現物の確認だけで、日々終わってしまいます。
「とにかく、発売日に、ファンの期待に応える製品を間に合わせる」
ために、
「つくれるか」
「性能は出るのか」
「安全か」
「コストは問題ないか」
という、
「トレードオフの塊」
でしかない難問を、
「毎秒毎秒解き続ける」
それが、設計という仕事です。
そして、
「解を、後工程の人がわかるように表現する」
のが、
「図面」
です。
一つの図面が出図締切に間に合わないと、その後、加速度的に出図が遅れます。
たとえば、図面を待っている
「購買担当者」(協力企業へ、見積もり、検討を依頼いただく方)
「製造部門/生産技術担当者」(組み立て、機械加工、熱処理、素材、金型・・など、細かく別れます)
方への配布が遅れないように
「自分で印刷して、配布する」
必要が出てきます。場合によっては、
「直接持参」
することもあります。
既に遅れているのですが、これらの追加作業により、さらにどんどん遅れます。
「どこかで大きく挽回する」
か
「もともと、かなり前倒しで出図する」
ようにしないと、出図期間の最後の頃は・・・になります。
元々のスケジュールがハードなため、体を壊す関係者が出たりすることも、しばしばあります。すると、さらにハードなスケジュールになります。
塾で、「前倒しでやってね」と繰り返し言うのは、上記のような経験があるからです。
明日どうなるかわからないため、今日時点で、できるだけ
「ゲイン」
しておく必要があります。経験上、だいたい
「明日の状況は、今日より、かなり悪くなる」
ものです。
「遅れに遅れまくっても、誰も助けてくれない」
ため、
「最初から自分で、完遂できるように、いろいろなことを組む」
しかありません。
こう言うと、
「そんな大変な仕事はやりたくない」
と思うのではないか、と僕は思っていますが、塾でこういう話をする度に、なぜか塾生さんは
「設計者になりたがる」
ので、とても不思議です。
ボストン・ポップスの指揮者 キース・ロックハート が
「責任中毒」
という言葉で、指揮者という仕事の面白さを表現しています。
「設計者と指揮者」
共通点がある気がします。
長くなりましたので、続きはまた。
今年も、忘年会は、東京・京都それぞれ行いたいですね。
スケジュールが見えてきたら、また連絡します。
楠浦 拝
* 僕は、口を出しすぎて?、「エンジン製造ライン出入り禁止」になったことがあります(笑
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