「発明塾®」へようこそ!: 発明塾京都第160回開催報告~「ものづくり」を学ぶこと、「深い理解」に至ること

2013年12月21日土曜日

発明塾京都第160回開催報告~「ものづくり」を学ぶこと、「深い理解」に至ること

第160回も、無事終了しました。

今回もまた、「発明塾」式の「発明方程式」の解き方について、素晴らしい進歩が得られました。もちろんその結果として、素晴らしい発明も得られたわけですが、方法論の進歩は、結果以上に重要です。

参加した塾生さんは、お疲れ様でした。


僕が、発明塾の討議で常に心がけていることの一つに、「どのような議論にも、必要最低限の時間を掛けること」が、あります。

実際には、塾生が多数参加して、色々なアイデアを討議したいと思えば思うほど、このルールを守ることは難しい(注1)のですが、このルールが重要であることは、僕だけではなく、塾生も「身を持って」理解しています。

今回も、「一見、筋が悪そうな発明の方向性」について、「何で筋が悪そうに見えるのか」という僕の疑問を解消するために、一定の討議の時間を取りました。その結果が、上記「発明方程式」の解き方の進歩に、つながりました。


今回の議論を踏まえて、塾生の一人から、

「楠浦さんが、ものづくり(ものの作り方、という意味です)について勉強する際の、おすすめの参考書は何ですか」

という質問がありました。良い質問です。既に挙げた本(注2)以外にありますか、と。


結論から言うと、既に挙げた

「ものづくり解体新書」「実際の設計」「クルマはかくして作られる」

以上のことは、各論で勉強するほうがいいのではないか、と思います(注3)。



「クルマはかくして作られる3」です!
ものづくりに関する、これ以上無い素晴らしい
「教科書」の一つ

以前も、「クルマと携帯電話の作リ方を、部品レベルまで押さえれば、ほとんどすべてのものづくりが理解できる」という話をしました(注4)。

意欲のある塾生さんは、「クルマはかくして作られる」を紐解きながら、さらに一つ一つの内容について、学問的(専門の教科書的)に理解を深め、また、ネットで関連情報を調べ、まとめるとよいでしょう。調べて、

「ふーん」

と「何となくわかったつもり」で終わらせず、自分でまとめる事が重要です。さらに実際に、発明でそれらの知識を使うと、理解は完全になります。

例えば、最も身近な機械部品として「ボルト(ネジ)」があります。上記、「クルマはかくして作られる3」で、最初に取り上げられています。福野氏(著者)が最初に取り上げている理由は、「シンプルで、最も重要で、奥が深い(注5)」からです。本書によれば、トヨタの新人技術者は、専門の指導員から「10時間」ボルトについて講義を受けるそうです。当然でしょう。ボルトを知り尽くさずに、機械設計は出来ません。


今回の発明討議で取り上げた「CFRP」については、「主応力」という概念を駆使しないと、製造法が理解できません。塾生のメモによれば、

「応力とは、力/面積(この面は選び方がいろいろできる)です。この面の選び方によって応力はその面に垂直な垂直応力と、並行なせん断応力に分けられます。せん断応力が0となるような角度の面において垂直応力は極値となり、その垂直応力のことを主応力と呼ぶ」

だそうです。ちゃんと、理解できているようですね。しかし彼は、

「原理の理解が甘くても単位は取れるけど、発明には圧倒的な力の差を生むなと感じ」

ているようです。いいことです。講義の単位がどうとか言うような、低い次元の話をしていてはいけません。


「知財」と「ものづくり」を学ばないと、発明は出来ません。大学の授業で「クルマはかくして作られる」をテキストにして工学の知識を縦横無尽に教えれば、もっと学生が「原理原則の深い理解」ができるのでは?と思います。
式や名前を教えたり、憶えさせたり、簡単な問題を解かせたりしていても、社会で求められる能力とのギャップは、開くばかりです。

ファインマンの子供の頃の体験が、非常に興味深い(注6)。

「ねえパパ、ぼく発見したんだ。荷車を引っ張ると荷台のボールはうしろに転がる。引っ張っていて急に止めるとボールは前に転がる。どうして?」
ファインマンの父は「それは慣性というものだよ」とか「ニュートンの運動の第一法則だよ」といってすませることもできた。しかし、父親は息子の疑問に真剣に答えた。
「なぜかはわかっていないけれど、動いているものはずっと動きつづけようとし、止まっているものは力を入れて押さなければ動かないものなんだ」
ファインマンは「これが深い理解というものだ」と述べている。「父は名称を教えたりはしない。何かの名前を知っていることと何かを知っていることの違いを父はわかっていた。私は幼いうちにそれを教えられたのだ」


そういう「深い理解」にたどり着けるような場として、「発明塾」を今後も継続していきたいと思います。



※ 注1) 発明塾のメンバーが、常に一定の数に保たれる理由が、ここにありそうです。

※ 注2) 「技術・設計・問題解決」に関する参考書のページを参照。発明塾で「蔵書」として所有しているものも有ります。今後も逐次充実させ、塾生が自由に勉強できる環境を整えたいと思っています。

※ 注3) これは、僕自身がそのようにして身につけたから、ということになります。エンジン設計者は普通、ボルトや歯車のような「機械要素」の製造法、金属の熱処理、金型の作り方、それらを用いた「鋳造/鍛造/射出成形」、プラスチックの成形も当然学びますし、粉末焼結のような特殊な製造法、切削/研磨/研削のような基本的な機械加工から、プラズマ加工/溶射のような特殊な加工法、果ては「潤滑油の作り方」のような化学系のことまで、ありとあらゆることを学びます。
僕はその後、半導体や光学デバイス、バイオ/ライフサイエンスの研究開発/事業開発も担当したので、いわゆる「半導体プロセス」「メッキ」「光学フィルムの作り方」「ガラス/セラミックの製造/加工」「細胞工学」「遺伝子組み換え」のような、更に幅広い「ものづくり」の方法を学ぶことが出来ました。

※ 注4) 実際に毎年、携帯電話を一台分解して、中を見てもらっています。これだけでも、全然違います。クルマについては、実物をばらすのは勇気が要りますが(笑)、京都大学機械系には、僕が川崎重工時代に寄贈した「W650」(僕が開発に携わった機種)のエンジンが展示されており、見たい人は「分解実習/僕の解説付き」で、いつでも見ることが可能です。

※ 注5) ボルトという「ごくシンプルな機械部品」一つを理解するにも、材料力学の深い理解と、熱処理や機械加工、鍛造などの加工法に関する知識が必要となる。例えばオートバイのエンジンにおいて、重要なボルトは「塑性域角度締め」という特殊な締め付け管理がされており、過度な再利用は不可である。理由は「この締め方では、(弾性域に比べ)飛躍的に高精度で締結できるから」であるが、それは材料力学(正確には、弾塑性力学)の知識がないと、永久に分からない。

※ 注6) 「発明家たちの思考回路」E・シュワルツ より引用。