2013年10月20日日曜日

発明塾京都第151回開催報告~「作り込み」と「確信犯」再び

第151回は、発明の基礎となる演習課題と、アイデアの討議を行いました。いきなり面白い視点のアイデアもあった一方で、せっかく先行技術を見つけていても、それが読みこなせていないため、先に進まない、という例もありました。

そのためにも、塾で出題している「演習課題」を、しっかりとこなし、かつ、自分の発明作業で、学んだ事を、すぐに実践することです。


「単なるお勉強屋」には、僕は興味はないので。



さて、今日は僕が「川崎重工業」のオートバイ開発部門で学んだ2つのことを、お話しましょう。皆さんが仕事を選ぶ時の、一つの規準になればと思います。それは、以下の2つの言葉で表されます。


・「作り込み」

・「確信犯」

いずれも、当時の開発部門の部長が、口癖として繰り返していた言葉で、特に後者の「確信犯」は、僕の座右の銘の一つでもあります。



1)「作り込み」

不思議と今でも、その時のことをはっきりと覚えているのですが、当時部長がこの言葉をしつこく繰り返していたのは、「ある機種」(注1)の開発についてでした。

「ネチネチと作り込んで、市場で高く評価されるものにしていくのが、カワサキ流なんですよ」


と、開発担当の係長さんに向かって、それこそ「ネチネチ」(注2)言っておられました。カワサキはオートバイメーカーとしては規模は大きくないため、開発したエンジンをどう発展させていくかということに、強いこだわりと独自の方法論を持っていたようです。


「新しい型を起こすな」


と、僕自身もかなり強く言われました。設備投資を抑えるという点が一番でしょうが、「完成度を高める」「突き詰める」という土壌も、有ったように思います。


例えば、僕が大学時代から10年以上乗っていたオートバイ「ZZ-R1100」。


・「ZZ-R1000」 http://bit.ly/1guk5Jt


このオートバイは、1990年に「世界最速(注3)」を謳い文句にしてデビューし、メーターも 320Km/m まで目盛りがあることが、当時非常に話題となりました。


しかしこのオートバイのエンジンの基本設計は、1984年のGPZ900Rに遡ります。その後、GPZ1000RX、ZX-10、と排気量変更を含め少しずつ改良を重ね、ZZ-R1100になります。当たり前なのですが、当時開発に携わった先輩方と机を並べて仕事をさせていただいたので、当時のことも色々伺うことが出来ました。


自分が乗っていたオートバイということもあり、ZZ-R1100に至るまでの歴史は、書物で分かる範囲ではすべて勉強してから入社したのですが、開発者に直接話を聞き、自分で実際に開発を担当して(注4)、「作り込み」の意味を、肌で感じることが出来ました。


非常に貴重な経験だったと、当時の先輩方/上司に、とても感謝をしています。


「作り込み」「完成度を上げた」ZZ-R1100のエンジン(型式名:ZXT10CE)は、僕にとっても思い入れのある、「究極のエンジン」です。


カワサキは、他社に比べても「作り込み」が、非常に上手いメーカーだと思います。僕が担当したW650も、当初から900cc化の計画もあり、僕もその検討を担当しています(注5)。



2)「確信犯」

新機種開発は、基本的に「不具合対策(注6)」の連続です。設計としてギリギリを攻める場合には、ある程度予測して、材質や形状の異なる部品を複数手配しておくのですが、当然「想定外」の事が起きます。

不具合対策のために、次々に行われる「開発会議」で部長が「確信犯でやってくださいよ」、と言うわけです。


☓「たぶん、これで行けるだろう」

◯「絶対、これで行けるはず」

つまりそういうことだと、僕は理解していました。「根拠と自信」が「確信」にまで高まるほど、「検証」した結果なのか、ということです。


「検証」は、「自問自答」と言い換えることも、出来る。



よく「大学時代の勉強なんか、企業では役に立たない」という人がいますが、それは「使ってないだけ」でしょう。あるいは、そこに至るまで「考えていない」だけでしょう。


実際僕が、エンジン設計を担当した当初、大学時代の教科書を開かなかった日はありません。特に材料力学や、材料そのものについて、大学時代に学んだ知識をフル活用しました。不具合対策会議に、分析結果をレポートするときにも材料に関する様々な文献、理論を踏まえる必要がありました。


「確信犯」(注7)


には、「知識」と「理論的理解」が欠かせません。


塾生さんには、ぜひ、上記のような職場でみっちりと自分を「鍛えあげて欲しい」と思いますし、それに耐えられるだけの勉強を、大学時代に積んでおいて欲しいと思います。


発明塾が、そのきっかけになれば、これ程嬉しいことはありません。




※ 注1) 「機種」とは、バイクの種類のことです。ここは記憶が曖昧なのですが、たぶんVN800(通称「バルカン800」)だったと思います。


※ 注2) 余談ですが、ひょっとしたらカワサキだけかもしれませんが、開発から上に行く人は、全員この「ネチネチ」を持っておられました。当時のその開発の部長も、その後、事業部長になられました。


※ 注3) 当時は、国内4社すべてが「世界最速」を競って、新たなオートバイを次々に開発していた時期でした。320km/hのメーターが「伊達ではなかった(実際に300km/hを超える速度が、素人でも安全かつ簡単に出せる)」こともすぐに証明され、「世界最速と言えばカワサキ」という時代が、しばらく続きました。


※ 注4) その後、ZZ-R1200になる際(前)に大幅な変更が加えられ、同じエンジンとは言い難くなりました。その際、幸運なことに、そのトランスミッションの設計を、すべて担当することが出来ました。自分が乗っているオートバイの「次の機種開発」ができる、ということで、今まで以上に力が入ったことを覚えています。


※ 注5) 当時は「900cc 化は、熱的に厳しいかな」という結論になり、実機製作せずお蔵入りでしたが、その後2011年に、ボア(ピストン径)アップをした 800cc 版が発売されています。この排気量のチョイス、当時の検討内容を思い出しても、絶妙だと思います。

当時に比べると、多少材料が良くなっているでしょうが、やはり900cc は厳しかったのでしょう。息の長い機種になってほしいですね。
ちなみに空冷のエンジンは、ありとあらゆる部品の材料が「熱的(耐熱温度/高温強度)」に厳しいので、「材料」の勉強になりました。「材料」の知識は、製造業ならどこへ行っても役に立つ知識の、一つです。

※ 注6) 誤解のないように言うと、開発中の「破損」「故障」などを、開発工程では「不具合」と呼びます。



※ 注7) 塾生の理解については、以下参照。


・塾長の部屋(38)~「毎週教会へ行く」ことの意味

http://edison-univ.blogspot.jp/2013/03/blog-post.html